SERIES
食とカルチャーの交差点
2026.07.14. | 

フリーランス 抽出家・藤岡 響|食とカルチャーの交差点

映画や音楽など好きなカルチャーの向こう側には、その人の考え方や感性が宿っている……そんな視点からお話を伺う、連載『食とカルチャーの交差点』。

今回登場いただくのは、コーヒーだけでなく日本茶やノンアルコールカクテルなど、水を介して抽出する飲み物全般を扱う「抽出家」として活動する藤岡 響(ふじおか・ひびき、以下 響さん)さん。

飲み物を通してさまざまな場所や人と関わりながら活動する響さんのお話を伺っていると、味わうことそのものだけでなく、その時間や空気感を大切にしている姿勢が印象的でした。

そんな響さんの“食とカルチャーの交差点”を覗いてみましょう。

抽出の先にある、その店らしい体験

編集部:響さんは「抽出家」という肩書きで活動されていますが、改めてどんなことに取り組まれているんですか?

 

響さん:コーヒーだけでなく、日本茶やノンアルコールカクテルなど、水を介して抽出するもの全般を扱い、フリーランスのバリスタとしてレシピ監修やトレーニングを行ったり、全国のカフェ立ち上げをサポートしたりしています。

現在は三軒茶屋のSAMAAという店舗でドリンク監修やクオリティコントロールも担当しています。そこでは超音波ミキサーや石臼など新しい器具を使いながら開発を行っていて、それは今まさにワクワクしていることのひとつですね。

 

編集部:抽出という行為は同じでも、お店ごとに求められることは違いそうですね。

 

響さん:そうですね。そのお店らしさに合わせてドリンクを考えたり、新しい提案をしたりするのは面白いです。味だけじゃなくて、その場所で過ごす時間も含めて体験だと思うので。

 

編集部:お店ごとに違う個性を引き出しながら、新しい表現にも挑戦されているんですね。

 

響さん:そうですね!

 

編集部:そんな風に日々いろんな場所や人と向き合っていると、どうしても仕事中心の生活になりそうな気もしますが、仕事を離れた時間はどんな風に過ごされるんですか?

 

響さん:フリーランスなので仕事と休日の境目が曖昧なんですが、サウナに行ったり、映画を観たり、猫の動画を観たりして癒されています(笑)。スパイスも好きなので、気づけば毎日カレーを食べてたりしますね。

 

公園でサンドイッチを食べながら聴きたい音楽

編集部:では早速、響さんのカルチャーについて伺いたいと思います。今回のテーマは「リラックスしながら食事をしている時に聴きたい音楽」です。

 

響さん:晴れた日にテイクアウトしたサンドイッチやドーナツ、ケーキなんかを持って、公園や川沿いを散歩するのが好きなんです。そんな時に聴きたいのは、ゆるくてチルな音楽ですね。マック・デマルコの『Salad Days』だったり、坂本慎太郎さんや細野晴臣さんだったり。

 

編集部:なんだか気持ちのいい休日の風景が浮かびますね。今挙げていただいたアーティストも含めて、響さんらしい景色が浮かぶ選曲だなと思いました。昔からこういう音楽がお好きだったんですか?

 

響さん:若い頃はパンクが好きだった時期もあったんですよ!レディオヘッドみたいな自分の内側に深く潜っていくような音楽を聴いたり、テクニカルなポストロックにハマった時期もありました。でも年齢を重ねるにつれて、穏やかでピースフルな音楽も好きになってきた気がしますね。

 

編集部:今回挙げていただいたマック・デマルコや坂本慎太郎さん、細野晴臣さんも、それぞれ出会いがありそうですね。

 

響さん:そうですね。細野さんは父の影響が大きいですね。音楽好きな父がはっぴいえんどをよく聴いていて、その流れで好きになりました。マック・デマルコは渋谷のタワーレコードで試聴して気に入ったのがキッカケです。

坂本慎太郎さんは、ゆらゆら帝国の頃からずっと好きなんですよ。ソロになってからの淡々と繰り返されるゆるいリズムとか、思わず踊りたくなる感じが好きで。

 

編集部:今回挙げていただいた音楽には、どこか共通する空気感があるように感じます。ちなみに、響さんにとって音楽と食事ってどんな関係なんでしょう?

 

響さん:そうですね。私は目の前の料理や空間、その場をつくった人との対話に集中したいので、レストランで食事をしている時に集中して音楽を聴くことってあまりないんです。魅力的な食体験って、料理だけじゃなくて空間や時間も含めて全身で受け取るものだと思うんです。

でもテイクアウトして外で食べる時間は少し違う。自分の世界と自然のエネルギーが一体になるような感覚があるんですよね。だから暗い曲よりも、ゆるくてリズムがあって、どこか陽気な音楽に惹かれます。

 

編集部:なるほど。

 

響さん:例えば、カルガモが水面をスイスイ進んでいるのを眺めながら聴いていても違和感がないというか(笑)。その景色と自然に馴染むような音楽が好きなんですよね。

 

編集部:カルガモを基準に音楽を選ぶ方は初めてかもしれません(笑)。

 

記憶に残り続ける映画の食シーン

編集部:それではここから、印象に残っている映画の食のシーンについても教えてください。映画がお好きな響さんですが、今回はかなり悩まれたんじゃないですか?

 

響さん:そうなんですよ(笑)。映画は好きすぎて一つに絞れなくて。その中でも、伊丹十三監督の『タンポポ』、アキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』、『かもめ食堂』あたりが印象的ですね。

 

編集部:作品名を聞いただけでも、それぞれ全く違う空気感がありそうですね。どんなところが印象に残っているんですか?

 

響さん:『タンポポ』は個性的な登場人物たちや、さびれたラーメン店が立ち直っていく姿が印象的でしたね。子どもの頃に日曜洋画劇場で観た記憶があるんですが、何度も観ていた気がします。今思うと、ラーメンが好きになるキッカケのひとつだったのかもしれません。

『希望のかなた』ではフィンランドのレストランで、少し間違った解釈の寿司が出てくるシーンがあって(笑)。俳優さんたちの無表情な間が絶妙なんです。『かもめ食堂』もそうですが、独特の空気感やリズムがあって、何度も思い出したくなります。

 

編集部:たしかにお話を聞いていると、作品は違ってもどこか共通する空気感があるように感じますね。

 

響さん:言われてみると、シニカルだったり、シュールだったり、少し力が抜けていたり。そういうものに惹かれるのかもしれません。音楽もそうですが、平和でローカライズされたものというか、その場所らしさがちゃんと残っているものが好きなんだと思います。それと実は、『タンポポ』やカウリスマキ作品って、今は配信で観られないものも多いんですよ。だから記憶も少しずつ曖昧になっているんですが、それでもふと思い出すんです。そう考えると、本当に自分にとって大切な作品なんだろうなと思います。

 

編集部:だからこそ、時間が経っても記憶の中に残り続けるのかもしれませんね。

 

響さん:そうかもしれませんね(笑)。

 

編集部:本日はありがとうございました!

 

—————–

「カルガモが水面をスイスイ進んでいる景色に馴染む音楽」

という言葉が、とても印象に残りました。

響さんのお話を聞いていると、特別な刺激や派手な体験を求めるというよりも、その場所ならではの空気やリズムを丁寧に味わっている方なのだと感じます。

飲み物を抽出する仕事も、映画や音楽の好みも、その先にある「体験」に自然と目が向いているように見えました。

レストランでは料理や空間に向き合い、公園ではカルガモを眺めながら音楽に耳を傾ける。そんな響さんの感性は、何かを足していくというよりも、その場にあるものを丁寧に受け取る姿勢に近いのかもしれません。

だからこそ響さんがつくる一杯には、その場所らしい空気や時間まで溶け込んでいるように感じるのです。

—– インタビューに登場した食とカルチャー —–
・music:『Salad Days』/Mac DeMarco
・music:坂本慎太郎
・music:細野晴臣
・movie:『タンポポ』/伊丹十三監督
・movie:『希望のかなた』/アキ・カウリスマキ監督
・movie:『かもめ食堂』

 

藤岡 響 profile

抽出家・フリーランスバリスタ。コーヒー、日本茶、ノンアルコールカクテルなど、水を介して抽出する飲み物全般を扱う。全国のカフェや飲食店の立ち上げ支援、レシピ監修、トレーニングを行うほか、三軒茶屋「SAMAA」ではドリンク監修やクオリティコントロールも担当。飲み物を通じて、その場所ならではの体験づくりを探求している。

ライター / Mo:take MAGAZINE 編集部

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