
コーヒーを「醸す」
「醸造珈琲」の大きな特徴は、コーヒーチェリーの状態で発酵させながら、香りや味わいをつくっていくことです。
完熟したコーヒーチェリーを一つひとつ手摘みで収穫し、密閉容器へ。
そこで天然の酵母や乳酸菌の力を借りながら、温度や時間、発酵の進み具合を細かく見ていきます。
発酵条件が変われば、当然、出来上がる味も変わる。
今回の「醸造珈琲 春醸濃」では、カカオや黒糖を思わせる甘い香りと心地よい余韻を目指し、約30℃の環境でおよそ2週間発酵させています。
「発酵させたコーヒー」と聞くと、それだけでかなり新しいものに感じます。
でも、その背景にあるのは、奇をてらった発想ではありませんでした。
雲南で10年、コーヒーと向き合う
醸造珈琲の出発点となったのは、中国・雲南省にある自社農園「軍馬渓谷農園」。
2016年から、この土地でコーヒーの栽培と加工を続けています。
自然の中で育つコーヒーは、毎年同じ状態になるわけではありません。
気候が変われば、果実も変わる。
だから、決められた方法をただ繰り返すのではなく、その年の状態を見ながら、収穫や発酵、乾燥の方法を少しずつ変えていくのだといいます。
そんな農園で、農園主のリーさんがよく口にする言葉があります。
「We just focus on making the coffee.」(ただ、コーヒーをつくることに集中する。)
10年間、何か特別なことをしようとしてきたのではなく、目の前にあるコーヒーと向き合い続けてきた。
「醸造珈琲」も、その積み重ねの先に生まれた一杯なのかもしれません。
そして、雲南で育てたコーヒーを、その意図や背景ごと届ける場所として、大阪・東三国には焙煎所カフェ「KOUNOU-COFFEE」があります。
農園から、一杯のグラスまで。
つくる人と届ける人がつながっているからこそ、その味が生まれた理由まで伝えることができます。

日本と雲南をつなぐ、「醸す」という文化
「醸造」という言葉も、このコーヒーを知るうえで面白いところです。
日本には、味噌や醤油、日本酒など、発酵によって時間をかけて味を育ててきた文化があります。一方、コーヒーを育てる雲南にも、プーアル茶をはじめ、発酵を取り入れた食文化が暮らしの中に息づいています。
遠く離れた日本と雲南。
でも、微生物や自然の力を借りながら、時間をかけて味をつくっていく。
そんな感覚には、どこか重なるものがあります。
醸造珈琲を飲んだときに感じるという、
「初めてなのに、どこか懐かしい」
という感覚。
それはもしかすると、私たちが昔から親しんできた「醸す」という食文化と、どこかでつながっているからなのかもしれません。
朝でも昼でもない。コーヒーに「夜」という時間を
そして、醸造珈琲が提案しているのは、新しい味だけではありません。
このコーヒーのために想い描かれたのは、仕事を終えたあとの静かな夜でした。
照明を少し落とす。
ワイングラスにコーヒーを注ぐ。
香りを楽しみながら、一口ずつゆっくり飲む。
そこにチーズやナッツ、ドライフルーツを合わせてみる。
目を覚ますためでも、仕事に集中するためでもない。
一日を終える時間に寄り添うコーヒー。
ワインのような余韻を持ちながらアルコールは0%であることから、つくり手たちはこの一杯を「酔わない夜の贅沢」と表現しています。
コーヒーそのものを変えるだけではなく、コーヒーを飲む時間まで変えてみる。
そう考えると、「醸造珈琲」がつくろうとしているものが、少し違って見えてきます。

『醸造珈琲』を〝今〟届けたい理由
最初に「醸造珈琲」という言葉を見たとき、
「コーヒーを醸造するって、どういうことなんだろう?」という素朴な疑問を持ちました。
発酵させたコーヒー。
ワイングラスで飲むコーヒー。
それだけ聞けば、ちょっと変わった新商品として紹介することもできます。
でも、その背景を知っていくと、今回届けたいと思った理由は、その珍しさとは別のところにありました。
雲南の農園で10年間コーヒーと向き合い、その年、その日の状態を見ながら、収穫や発酵、乾燥の方法を考える。
そして、目指した味を一杯にするだけではなく、「夜にゆっくり楽しむ」という新しい時間まで提案する。
新しいことをするために、珍しい方法を選んだわけではない。
届けたい味や体験があって、そのために選んだ方法が「醸造」だった。
そこに、この取り組みの面白さを感じました。考えてみれば、私たちは知らず知らずのうちに、
「コーヒーは朝に飲むもの」
「仕事の合間に飲むもの」
と、楽しみ方を決めているのかもしれません。
でも、飲む時間や器、合わせる食べ物を少し変えるだけで、いつものコーヒーにもまだ知らない楽しみ方が見つかるのかもしれません。
朝でも、仕事の合間でもない。
一日の終わりに、ゆっくり味わう一杯。
『醸造珈琲』を知ったことで、コーヒーとの付き合い方が少しだけ広がったような気がしました。
いつもの一杯を、いつもとは違う時間に楽しんでみる。
そんな小さな変化が、新しいコーヒーとの出会いのキッカケになるのかもしれません。
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