コーヒー業界にはいて、日本茶の世界にはいなかった存在
小山さん:コーヒーは缶コーヒーでも飲めるし、家で淹れて飲むこともできる。そして、コーヒーについて熟知した淹れ手である、バリスタのコーヒーをお店で飲むこともできますよね。そういったお店で飲む人は、バリスタの人柄や淹れ方、そして味に惹かれているんだと思います。
でも、日本茶の場合はバリスタの立場にいる人、つまり最終的にドリンクとして提供する“淹れ手”の存在がこれまですっぽり抜け落ちていたんです。だからこそ、コーヒーのように淹れ方の研究がされず、どこも同じ淹れ方で、しかもその淹れ方が昔からほとんど変わっていませんでした。
そうなると消費者も美味しいお茶の味を知らないので、ペットボトルのお茶や家で手軽に淹れられる安くてそれなりのお茶を求めるようになります。茶葉が売れなくなって、お茶屋さんも農家も疲弊してしまうというサイクルに入ってしまっていました。でもそこに淹れ手が出てくれば、良質なお茶がちゃんと適正な価格で販売できるようになると思ったんです。
そして、“淹れ手“の役割とは
Satén Japanese Teaのコンセプトは「Leaf to Relief」、茶葉から一服へ。農園と直接取り引きして、茶葉の品質を管理し、一服する時間とともに高品質なドリンクを提供するのが淹れ手としての役割だと小山さんは言います。同時に、「お茶は作品を作っているようなニュアンスなのかもしれません」とも。
小山さん:その作品が適当であれば、さかのぼって農家さんまで適当に見られてしまいますよね。なので、僕らは適当にならないよう、1杯1杯丁寧に淹れようという気持ちを持っています。同時に、淹れるということは一つの表現だと思っているので、自分なりの表現も保ちたいと思っています。
バリスタである藤岡さんも同じです。
藤岡さん:茶リスタもバリスタも、共通するところは“伝える”ということだと思っています。バリスタは、Seed to Cupの一番最後の砦のようなポジションで、そこが抜けてしまうとその前に苦労して作ってきたものが台なしになってしまうんです。抽出を失敗してもそうだし、いかに抽出がうまくいったとしてもお客様に的確に伝えることができないと、その魅力が100%伝わることはありません。
そこを伝えられる日本茶の淹れ手が増やせたらお茶業界にとっても有益だと思うし、僕のバリスタとしての知見を入れていけたら、より発展していくのかなと思っています。
こだわりの内装と2人の雰囲気がつくり出す、絶妙な距離感
淹れ手がいるからこそ、生産者と飲み手をつなぎ、3者のいい関係をつくることができると考え、“淹れる”ということに誇りを持っている小山さん、藤岡さん。2人が淹れる1杯は、ホッと一息ついたときの心と体にやさしく染み渡り、今まで知らなかった日本茶の美味しさを伝えてくれます。
そして、2人を眺めていて「さすがだなあ」と思うのは、お客様との距離感。お客様に話しかけられたらにこやかに会話を弾ませるし、もちろん自分たちから話しかけもするけれど、基本は、静かで穏やか。お客様に気を配りながらも、手早く、そして丁寧に淹れる姿は、熟練のバーテンダーと重なります。
その絶妙な距離感や店全体の雰囲気の秘密は、内装の細やかな部分にも隠されていました。例えばカウンターの素材。
藤岡さん:カウンターの素材がモルタルだと、ヒジをついた時に冷たくてくつろげないじゃないですか。そこで手漉きの和紙を貼ってみたら、柔らかさがあって手触りも温かくなったんです。カウンターの奥行きも、圧迫感が出ないように落ち着く距離感を計算しました。
コンクリートむき出しのままの壁には、ところどころに北欧風の淡いグリーンの差し色が入っているかと思えば、カウンター席の後ろを振り返ると、床の間をイメージした空間があったり、ドリンクを注文するカウンターを照らしているのは和紙でできた北欧製の照明だったり。“和×北欧”の雰囲気は懐かしさを感じさせつつも洗練されていて、おじいちゃんから小学生まで気軽に立ち寄ることができる憩いの場となっています。
次回は7/10(火)に公開予定です。
日本茶、コーヒーだけでない、三つ目、四つ目の可能性について熱く語ってくださいました。小山さん、藤岡さんが想像する、「新しい日本のカフェ文化」にぜひ触れてみてください(つづく)