2018.12.04. | 

[Vol.3]農家も地域もおいしい関係がここに。神奈川県・藤野「ビオ市」

神奈川県相模原市・藤野地区(旧藤野町)に3年前にオープンした餃子+創作中国料理の店「大和家」。食材にこだわり、無化学調味料でつくられる料理の数々は、1度食べたら病みつきになるおいしさです。ファーマーズマーケット「ビオ市」に出店する地元農家さんらの野菜もふんだんに使っているという料理長・大和伸治さんに、地域と食の関係性を伺いました。

藤野で店を出すなら、ここしかない!

餃子に担々麺、季節の食材でつくる気まぐれラーメンに、在来種の無農薬大豆を使った手づくり豆腐の麻婆丼…。食材はほぼオーガニックで揃え、あるものは地域で賄う。味噌や醤油など、つくれるものはすべて手づくりし、化学調味料は一切使わない。山あいの小さな食堂で、ここまでこだわったおいしいごはんが食べられるなんて、驚きです。

「大和家」の前身は、大和さんが移住前に、東京・白金でやっていた同店名の、創作中華のレストランです。お店は盛況だったそうですが、子どもが生まれ、子育ての環境を考えたときに「東京ではない」と感じた大和さんは、シュタイナー学園に興味を持ち、たびたび藤野を訪れるようになります。

 

大和さん:何度かきているうちに、藤野にいる時間がどんどん長くなっていったんです。朝にきて、帰るのが21時を過ぎてたり(笑)。こんなにいいところはそうそうないだろうなぁと思って、それでもう「移住しようかね」ってなりました。

 

東京でやっていたお店は潔く閉め、当初はすぐ、藤野で自分の店を開こうと考えていました。しかし足を運んだ不動産屋では「藤野で飲食は厳しい。食べていけないよ」と言われてしまい、ピンと来る物件にもなかなか巡り会うことができませんでした。

その後しばらくは、ゴルフ場や福祉施設が運営するレストランで働いていた大和さん。あるとき、県道沿いの元食堂の物件が売りに出た、という連絡が入ります。そのお店はずいぶん前から空き店舗になっていましたが、以前に貸してもらえないかとお願いしたときには断られた物件でした。内見に行った大和さんは「藤野でやるならここしかないだろう!」と、即、購入を決めます。移住してから、じつに8年が経っていました。

 

「大和家」は、地域によってつくられたお店

しかし、お店は購入したものの、古い店舗の改装や備品の購入に使えるお金はほとんど残っていませんでした。そこで大和さんは、地域の仲間に相談。たちまち協力者が現れ「地域ファンディング」をやってみることになりました。

地域ファンディングとは、ネット上ではなく、地域内で呼びかけて直接ファンドを募るというもの。試食会を開催したり、チラシを配るなどして、なんと1ヶ月で約180万円が集まりました。

 

大和さん:この店は、そういう形でスタートした、地域によってつくられたお店です。だから、地域の人が活躍できたり、コミュニケーションが取れる場になればいいなと思って、定休日には場所を貸し出しています。

飲食に興味があればお試しでやってみる経験はしてみたいだろうなと思うんですよね。それができるチャンスはなかなかないので、ここを使ってもらえたらなと思いました。しかも、自分は客としてきて飲めちゃうっていうね(笑)。

 

それだけではありません。ランチ営業と夜営業の間の休憩時間は「ごごカフェ」として、地域の料理上手な人たちがコーヒーやスイーツを提供しています。大和家は、地域のコミュニティスペースとしても機能しているのです。

ちなみに、東京のお店はグルメ雑誌にもたびたび紹介され、コース料理なども出していました。しかし現在の大和家は、誰もが気軽に入れる食堂スタイルのお店です。

 

大和さん:入りやすさっていうのは、方向性を決めた理由のひとつだったかもしれません。コースだったら、くるのは年2回かもしれないけど、餃子だったら週2回きてくれる人もいる。ここはもともと食堂だった場所だし、そういう使われ方をしてくれたらいいなって思ったところはあるような気がします。

 

いちばんの食の安全は、生産者とつながっていること

また、大和家では、地元農家の野菜を積極的に使用しています。ちょうど大和家がオープンした3年前は、ビオ市が始まって、地域にたくさんのオーガニック農家さんがいることが知られるようになった頃でした。現在、5つの農家さんと日常的に取引があり、ビオ市に足を運ぶこともあります。

 

大和さん:僕は3.11が起きたときに、安全かわからないものをお客さんには出せないなと思い、西日本の野菜を使っていたことがありました。

でも店を始めて、藤野のコミュニティや地域性を考えたら、いちばん安全なのはパイプでつながってるってことなんじゃないかなと思えたんですね。農家さんがみんな一生懸命つくっているのは知っているし、なによりおいしいしね! 東京でやっていたときからオーガニックの野菜を使っていたけど、市場を通して入ってくるものの鮮度と、畑から直に入ってくるものの鮮度っていうのは、やっぱり全然違います。

 

地域で野菜を仕入れるメリットはそれだけではありません。大和さんは、小粒の大豆や形の悪いトマトなど、通常ならば売り物にならず、捨てるしかない野菜もどんどん買い取っています。

 

大和さん:形が悪かろうが粒が小さかろうが問題なくおいしいので。うちは形なんて気にしないし、たとえばトマトを大量に買い取ったときには、それでケチャップをつくったこともありますね。取ったまま、カゴでドンって持ってきてくれればいいので袋詰めする必要もないし、農家さんも楽なんじゃないかな。

 

地域の農家から仕入れると、たくさんのメリットがある

ちょうど大和さんの取材の際、Vol.2の記事で登場いただいた油井さんが、帽子(!)にささげをいっぱい入れて、配達にきました。じつはこのささげ、以前、大和さんからリクエストされて育てたものなのだそう。

 

大和さん:「油井くん、前にささげつくってたよね。今年はつくらないの? 使いたいんだけど」って言ったら「わかりました! 種植えます!」って(笑)。それでできたのが、さっき届いたささげなんです。こんなのつくれないかな、いけそうです、じゃあお願い、で頼めて実現する。これは、地域ならではだと思いますね。もし八百屋さんから買っていたら、こういう話はできない。そうなってくると、生産者を知っていたほうがおいしいものがつくれるよなって感じます。

 

それが、大きなプロジェクトに発展することもあります。じつは今、ある農家さんに小麦を植えてもらっていて、その小麦でオリジナルの麺をつくり、地産地消のオーガニックラーメンとして出していく計画があるのだそう。

 

確実に使ってもらえる先があれば、それは当然収入につながり、農家さんは新しいことにもチャレンジしやすくなります。そして大和さんも、ひとつ、夢を実現できるのです。

 

大和さん:うちのメリットでいうと、値段が市場に左右されないというのもあります。たとえばキャベツが市場にないときに、地域の農家さんに聞いたらあったりして、値段を聞いたら200円とかで。「今、世間ではキャベツ500円ぐらいしてますけど」みたいな(笑)。そういうのもすごく助かりますね。

 

地域での、生産者と料理人の関係性を知ると、直接対話ができるということが、こんなにもお互いにとっていいことばかりなのだなと実感します。

 

地域と食がつながると、誰もが楽しく、みんながおいしい

藤野では無理だと言われていた飲食店の経営ですが、大和さんのつくる料理のファンは多く、大和さんいわく「なんとかかんとか」3年経った今も続けることができています。

 

大和さん:それも苦しみながらじゃなくて、楽しみながらなんとかかんとかやっていけてるっていうのかな。自分の感覚も変わってきたんだと思う。東京で店をやってるときは、隣の飲食店と競り合ってみたり、お金がなんぼだっていう感じでやってたけど、藤野にきてからは、自分の生活に必要な額だけ稼げればいいやっていう考えになった。お金に対する価値観が変わったんでしょうね。それより今は、自分の店がやれるのが楽しくてしょうがないんだよね。

 

価値観までも変えてしまった藤野の魅力を尋ねると「やっぱり…人かなぁ」と返ってきました。

 

大和さん:飲食業ってその場で直接「おいしかったです」ってお礼を言ってもらえるのが醍醐味のひとつなんだけど、藤野では、そこはもう常にあって、それ以上にお客さんと深い話ができたりするんです。お客さん対お店ではなくて、もっと近い存在でそれぞれがいられる感じがします。

 

藤野というコミュニティのなかで、ビオ市が生まれ、農家さんが奮闘し、そのつながりから、飲食店がおいしい食を提供する。それがここで暮らす人たちの食生活を支え、結果的に地域の農や食を応援することにもつながっている。

つまり、誰もが楽しく(いろいろな意味で)みんながおいしい。地域と食がつながると、なんていいこと尽くしなんでしょうか。コミュニティによって育まれる食の形があるのだなと、そう思わずにはいられません。

 

–Infomation–

ビオ市

WEB : https://bio831.com/

大和家 Yamato-Ya

WEB : https://yamatoya.shopinfo.jp/

ライター / 平川 友紀

リアリティを残し、行間を拾う、ストーリーライター/文筆家。1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、現在はまちづくり、暮らしなどを主なテーマに執筆中。通称「まんぼう」。

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