2019.07.30. | 

“茶リスタ” と “バリスタ” の出会いが生んだ「抽出舎」

日本茶の淹れ手である“茶リスタ”の小山和裕(こやま・かずひろ)さんと、コーヒーの淹れ手である“バリスタ”の藤岡響(ふじおか・ひびき)さん。そんなふたりが出会い、昨年2月に株式会社「抽出舎」は生まれました。西荻窪の日本茶スタンド「Satén japanese tea」を中心に、日本茶やコーヒーに関する事業を広げています。「起業から1年半で、想像以上に店舗も事業も前進したんです」と話す小山さんに、その内容を伺いました。

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淹れ手として、作り手と飲み手をつなぎたい

小山さんと藤岡響さんが初めて会ったのは、小山さんが茶リスタとして活躍していた吉祥寺のUNI STAND。そこに、当時ブルーボトルコーヒーでトレーナーを務めていた藤岡さんがお客さんとして現れました。

 

小山さん:僕の中で、「どうすれば美味しい日本茶をコーヒーショップなどで出してもらえるのだろうか?」という想いがいつもありました。その頃、響さんも「美味しい日本茶をコーヒースタンドなどで気軽に出せないだろうか?」と思っていたようです。お互いに意見交換をする中で、「じゃあ、まずは美味しい抹茶ラテを作ろう」となったんです。

 

この会話が、日本茶スタンド「Satén japanese tea」の構想を練るきっかけとなりました。そして、ひとつひとつの過程の中で、その先の世界が広がるのを感じたそうです。

 

小山さん:お店のその先のことが具体的に想像できたんです。もともと僕たちは、お客様に生産地や生産者さんのことを知ってもらい、サスティナブルな関係を築きたいと思っていました。僕は日本茶を専門にした淹れ手で、響さんはコーヒーをはじめ様々なことに知見があるオールラウンダーだったので、この世界観をミックスできたら、より広い視野からお客様と生産者さんを繋ぐことができると確信しました。そのための社(やしろ)としてつくったのが抽出舎です。

 

第一歩として、昨年4月23日に日本茶スタンド「Satén japanese tea」を西荻窪にオープン。するとお店はすぐ繁盛店に。取材した時も、次々にお客さんが訪れては、美しくて、美味しそうなドリンクに目を細めたり、藤岡さんとにこやかに会話をしたり、のんびりとしたり、思い思いに過ごしていました。店内には静かに、そして穏やかにそこにいる人を包み込んでくれるような心地よさが広がっていました。

 

 

お店に合わせて「抽出すること」を提案

「Satén japanese tea」の開店を待っていたかのように、抽出舎にはたくさん声がかかるようになりました。たとえば、「新しいお店を作るから、手伝ってほしい」というもの。

例えば、武蔵野台駅の構内にあるカフェ「武蔵野台商店」や、国分寺市のカフェ「SWITCH KOKUBUNJI」ではドリンク類のディレクションや抽出のトレーニングなどを。さらに、外苑前にある「SOUND LOUNGE&CAFE “B.G.M.”」では、スタッフのアテンドからドリンクのレシピ提案、ドリンク類で使う陶器選び、オペレーションまでまるごとプロデュースしました。

 

小山さん:僕たちはコーヒーだけじゃなく、日本茶だけでもなく、ドリンク全般にわたって提案することができるので、そのあたりを評価してくださっているのかなと思います。フードと比べて、ドリンク類をプロデュースできる人は少ないと思うんです。特に、「抽出する」という技術をお店のコンセプトや状況に合わせてコーディネートすることはとても大事で、淹れ手が育たないとせっかくいい素材を使っても本来の味は出せません。それはすごくもったいない。たとえば、Saténの人気メニューである抹茶ラテも、高級な抹茶と濃厚な牛乳を合わせれば美味しい抹茶ラテができるかといったらそうじゃない。そこにも高い技術力や知識、さらに限られた時間内にお客様に出せるようオペレーションを組んだりすることが必要なんです。

 

 

ブルーボトルコーヒーで日本茶を出す

抽出舎には、かつて藤岡さんが働いていたブルーボトルコーヒーからのオファーも届きました。ブルーボトルコーヒーのコンセプトにあったお茶を、オペレーションも含めて提案してほしいというものでした。

小山さん:響さんと出会った頃に、「どうすれば美味しい日本茶をコーヒーショップなどで出してもらえるのか?」と話していた、そのゴールに一気にたどり着けたような出来事でした。しかも、ブームの抹茶ではなく緑茶を選んでくれた。西荻窪という地域に根差したお店としても注目をしてくだったようでした。僕たちはいつもメニュー提案をする時はコンセプトを考えるのですが、今回は、コーヒー業界やブルーボトルコーヒーをよく知る響さんから「コーヒーに寄り添うお茶」にしようと提案があり、主張しすぎず、でも日本茶として存在感のある日本茶の提案をコンセプトにしました。結局、品種の特徴がある緑茶と、少しアレンジが効くような単一農園の合組(ブレンド)緑茶の2種類を提案して、後者を選んでいただきました。

 

 

抹茶って何ですか?

多くの依頼を受けるなかで、仕掛ける側として新しいイベントを創り出すことにもチャレンジしました。カフェの情報サイト「Cafe Snap」と今年5月に開催した、抹茶ラテアート選手権「Japan Matcha Latte Art Competition 2019」です。

 

小山さん:響さんが「コーヒーと抹茶だとラテアートの仕方が全然違う」と気付いたのがそもそもの始まりです。コーヒーと同じようにするとうまく描けないって。僕の中にも、海外でも抹茶ラテを出すお店は多いけれど、それは本当に抹茶なのだろうか、という疑問があって。日本茶の業界では抹茶の定義があまり浸透していないというのもあるんですけど、海外で使われる抹茶はいよいよ本当に抹茶といえるのかなって。抹茶ラテアート選手権では、あえて抹茶の定義をルールに組み込みました。日本茶の協会が定めている定義があるので、その抹茶しか使えないというルールにしたんです。そうすると、選手は自分たちが普段使っている抹茶がそれにあてはまるのかを考えて、本物の抹茶でラテアートを描く時にどんな技術が必要なのか、自然と探究してくれるんじゃないかと思ったんです。

世界でも初めての試みだったという、抹茶ラテアート選手権。国内外から想定を超える40名以上の応募があり、写真選考の結果、12名が予選を通過して本選へ。開会式で小山さんは、選手たちに向かってこう投げかけました。「抹茶って何ですか?」

 

日本茶の魅力を、さまざまな場で伝えていく

小山さん:コーヒーと同じように、抹茶も性質を理解していないといいラテアートは描けないんですよ。そして抹茶を知ってもらうことで、確実に農家さんへとつながります。

 

本選では、大会のために台湾からわざわざ来日したという人も。コーヒーのラテアート選手権の優勝経験者が苦戦するという展開もあり、とても盛り上がったのだそうです。今年秋には早くも第2回目が開催される予定です。

 

小山さん:地域のコーヒー屋さんが並ぶフェスティバルのようなイベントで、「お茶を出してください」とお声がけがあったのもうれしかったですね。お茶を飲める場としてはうちだけが呼ばれたのですが、茶葉を買うことへのハードルが高くなっている今、コーヒーみたいに気軽にお茶と出会える場をつくれるのはすごく意味があることだと思っています。

 

淹れ手として、本当に美味しい日本茶をその場にあわせて提供しながら、飲み手と生産地の作り手とをつないでいく。抽出舎をつくる時に目指したひとつのゴールに向かって駆け抜けたふたり。「3年、5年かかると思っていたことがこの1年でできたという実感があります」と小山さんはふり返ります。

それでは今、ふたりはどんな未来を見ているのでしょうか。次回はこの「Rord to “ Leaf to Relief ”」特集についても語っていただきます。(つづく)

 

 



– Information –

 

株式会社抽出舎

東京都杉並区善福寺3-16-13

https://saten.jp/profile

 

Satén japanese tea

東京都杉並区松庵3-25-9

<火~木、土日>10:00~21:00 

<金>10:00~23:00

https://saten.jp/

ライター / たかなし まき

愛媛県出身。業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。人の話を聴いて、文章にする仕事のおもしろみ、責任を感じながら活動中。散歩から旅、仕事、料理までいろいろな世界で新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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