SERIES
Food Future Session
2021.07.01. | 

[Vol.2]体験と紐づいたおいしさは、記憶の上位に残る【べジパング × Yuinchu】

「Food Future session」という壮大なタイトルのもと今回からスタートする、×Mo:take の座談会。
初回は、長野県原村で、自分たちで希少品種のとうもろこしを独自農法で生産し、地元の特産品を目指してブランディングした『八ヶ岳生とうもろこし』の販路を切り開いている株式会社べジパングの折井祐介さんと、柳沢卓矢さんとの対談です。

お二人にとっても、Mo:takeの小野正視と坂本英文にとっても、食は仕事でもあり、生きていくうえでの毎日の営み。日々、食と向き合いながら、食についてどんな未来予想図を描いているのか、食に関するテーマで自由に語りあってもらう座談会を通して、その地図をちらりとのぞかせていただきました。

今回の座談会には、事前に複数のトークテーマをおみくじ形式で用意。登場4人それぞれに1枚ずつ引いてもらい、引いたテーマについて、4人で話していただきました。

今回4人が選んだテーマはこちら。

ー食と向き合う時間の最大化/折井さん
ー時短についてのトピック/坂本さん
ースキルと食で広がる可能性/柳沢さん
ー自らつくれること、つくれることの重要性/小野さん

お金を稼ぐためなら、何をつくってもいいか

小野:僕が引いたテーマから、あえてお二人にキラーパスを出しますね。
「自らつくれること、つくれることの重要性」というテーマで考えた時に、とうもろこし以外の選択肢ってありますか。

 

折井さん:僕らが今提供しているものはとうもろこしですが、とうもろこしじゃなくても喜んでもらえるのであればいいと思っています。それは、僕らには「この野菜をつくらなければいけない」という概念はないからです。

たまたま僕らの土地の環境と、鮮度がいいもの、という条件にとうもろこしがマッチしていただけで、「とうもろこしでなければだめ」ということはありません。

そもそもは果物が大好きなので、初めは果物でいこうと思ってたんですけど、標高が高すぎて作れなかったんですよね。

 

小野:たしか原村ではセロリを作っている農家が多いんですよね。そういう意味では異端ですよね。

 

折井さん:セロリって好きな人もいますけど、嫌いな野菜ランキングにも必ず入ってますよね。正直いうと僕もセロリがあまり好きじゃないんですよ(笑)

周りの人たちには「お金を稼ぐことを考えるならばセロリをつくるべきだ」と言われてきたんですけど、嫌いなものを作って売ってお金を稼ぐというのは、ちょっと違うと思ったんですよね。

 

 

人に喜んでもらうことが最大の幸福

柳沢さん:とうもろこしにした理由は単純で、農業を始めて最初の3年は夏野菜のピーマン、トマト、ナスなどをひたすら作ってたんですよ。どれを食べても「採れたてのものはうまいね」という実感はありましたが、逆にいうとその程度の感想だったんですね。それが「八ヶ岳生とうもろこし」の品種を初めて食べた時に、「こんなとうもろこしがあるの!?」って三度見するぐらい驚いて。

 

坂本:本当に、畑でもぎたてのものを食べさせてもらったやつはすごかったですね。

 

柳沢さん:折井と僕のベクトルが同じ方向を向いているのは、お互い、人に喜んでもらうことが一番幸せなことだと思っているからなんですよね。人が喜んで、その口から「ありがとう」という言葉が自然に出てくる時って、そこにすごい感動があってこそなんですよね。でもこのとうもろこしだったら、それを感じてもらえるなと思ったんです。

でも、こんな風に言うべきではないかもしれないのですが、感動を感じられるはずのとうもろこしを農協に出荷しても、それを食べた人の喜びを汲み取ることが、自分たちにはできなかったんです。だったら直売でやろうということになって、営業職での経験を生かしてアウトレットや売り場に「トウモロコシ農家なんですけどやらせてください」って直接営業をかけたりもしました。

 

小野:感動が行動力に直結してますね。

 

折井さん:僕らが良かったのは、違う業界から入ったからなんです。最初に農業から入っていたら、農業界のルールを叩き込まれて成長してしまったと思いますから。

 

柳沢さん:商談会などに参加したときも、みんなスーツを着ている中で、自分たちだけジーンズにTシャツ、長靴で行って白い目で見られたりしましたよね。でも、ひるまずに「食べてください」って。

 

折井さん:僕らの感覚では、おいしければ評価されるべきだと思っていたのに、いまの一般的な市場出荷では、サイズでしか金額が決められないんですよ。めちゃくちゃおいしくても、サイズが小さいと値段がつかない。ちょっと不思議な業界ですよね。

でも、自分たちが初めて食べた時に感動して「これは間違いない」と思ったのを信じて進みましたね。売れないアイドルに対して「いつか花開く」と信じて、その可能性にかけたような感じです。

 

 

体験に紐づいたおいしさは強い!

折井さん:東京からツアーで来た人たちに、朝6時に起きて畑でとうもろこしを食べるという体験をしてもらったことがあります。観光でいろんな場所を回ったツアーだったんですけど、アンケートの結果、そのツアーで一番印象に残っていたのは、畑でとうもろこしを食べた体験だったんですよ。

もしこれが料理としてテーブルの上に出されたものだったら、同じ味でも印象には残ってないと思うんです。友だちと一緒に頑張って朝早く起きて、畑で食べた、という体験があったからこそ、記憶の上位に残ったと思うんですよね。

仮に、スーパーで僕らのとうもろこしよりもおいしいものが売っていたとしても、経験に紐づいた美味しさは超えられないと僕は思っていて、そういう価値をいかに生み出せるのか、ということをいつも考えています。

 

小野:自分たちが感動したもので人を感動させるということですね。

 

坂本:僕も同じ考えですね。だからこそ、ケータリングの場合は見栄えも重要視してきたし、その空間で、そのテーブルセッティングを前にして、視覚も含めた五感をフルに使って感じながら食べてもらうということが一つの体験価値だと思うんですよね。

体験と美味しさを紐付けたいというお二人の話を聞いていて、僕も同じだなと思いましたね。

 

 

次回は7/6(火)に公開予定です。

体験と美味しさを紐付けると、感動が大きくなって強烈な印象として自分の中に残るという経験、実感としてとてもよくわかります。次回は、「合理化と時短」という世の中の流れの中で、それをどうさせていくかーーそんな展開でお伝えしていきます。(つづく)

 

– Information –
http://hamarafarm.com/

 

Food Future session ゲストプロフィール

折井祐介(おりい・ ゆうすけ)
株式会社ベジパング兼HAMARA FARM代表
高校卒業後、カナダの短大に留学。帰国後、東京で個別指導塾の講師と遺跡発掘のアルバイト生活後、地元に戻り結婚式場、大手旅行代理店に就職。2011年に旅行代理店を退職し就農。「HAMARA FARM」を設立。2015年に生鮮野菜卸会社の株式会社ベジパング設立。夢はトレジャーハンターになること。

柳沢卓矢(やなぎさわ・たくや)
株式会社ベジパング取締役・HAMARA FARM代表
Mark&Burns Consulting合同会社代表
東京の専門学校で会計士の知識を学び、大手自動車メーカーの営業として就職。後に故郷長野へ戻り同自動車メーカー、大手音響機器メーカーでキャリアを重ね、折井氏とHAMARA FARM・株式会社ベジパングを設立。2018年には東京でパッケージやVMD、税理士と共に財務やFPを含め提案するMark&Burns Consulting合同会社を始めた。侍が好き。愛読書は新渡戸稲造の「武士道」。

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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Mo:take MAGAZINEは、食を切り口に “今” を発信しているメディアです。
文脈や背景を知ることで、その時、その場所は、より豊かになるはず。

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みんなとともに考えながら、さまざまな場所へ。
あらゆる食の体験と可能性をきりひらいていきます。

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