2019.02.26. | 

[第1回]めんどくさい料理を、たのしい料理に変えるコツ:みんなが好きなごはんの作り方

みなさん、日々の料理をたのしんでいますか。「たのしいどころか、めんどくさい……」と感じている方もいるのではないでしょうか。そこで、料理をもっと気軽にたのしむコツを、フードデザイナーの蓮池陽子(はすいけ・ようこ)さんから教わる連載をスタートします。料理をたのしむには、誰かに「おいしい」と言ってもらうことが大切です。そんな体験が重なるうちに、めんどくさい料理がたのしい料理に変わっているはずです。

 

はじめまして、フードデザイナーの蓮池陽子(はすいけ・ようこ)です。「もっとみんなに、料理をたのしんでほしいんです。料理を作る人を増やしたいんですよね」。以前、Mo:take編集部さんの取材を受けた時に、そんなお話をさせていただいたところ、「では、蓮池さんがその方法を伝えてください」となり、コラム「めんどくさい料理を、楽しい料理に変えるコツ」の連載をはじめることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

第一回のコラムは、「みんなが好きなごはん」というテーマで書きたいと言ったのですが、後から考えると、ずいぶん大きなことを言ってしまったな……という気がしています(笑)。

おいしさを科学的に分析した書籍はたくさんありますが、このコラムでは私の失敗と経験、私なりの分析を加えて、みんなが好きなごはんをつくる心意気を綴りたいと思います。

実は私、20歳のときに料理に目覚めました。こういった仕事をしているわりには、遅い方かもしれません。それまでは、学校の調理実習以外で料理をした記憶さえありません(笑)。料理に目覚めたきっかけは、捻挫です。大学生の頃、子どもとの野外活動としてキャンプのリーダーをしていたのですが、キャンプ初日に捻挫をしてしまったんです。子どもと遊ぶこともできず、やむなくキッチンで料理をしたのが始まりでした。

それまでほとんど包丁を握ったことがなかったのですが、母が普段作っていたナスの味噌炒めを思い出し、なんとか作ってみたんです。これが子どもたちに大好評! あっという間に皿が空になりました。おぼろげな記憶を元に短時間で作った、何気ないナスの味噌炒めを、こんなにも美味しそうに食べてくれるなんてーー。ただただうれしくて、ただただ調子に乗りました(笑)。そして、それがきっかけになり、料理の道へ進んだんです。今では、捻挫という失敗が、私に料理を与えてくれたと思っています。

大学卒業後、飲食店や料理教室で働くかたわら、キャンプでの料理の仕事も続けていました。当時、マイブームだった料理は「アボカドシュリンプ」。濃厚なアボカドとエビの旨みと甘みが合わさったあの美味しさといったら! 中学生の自然学校でも、自信たっぷりにアボカドシュリンプを出しました。ところが、アボカドシュリンプはたっぷり残され、私の元に戻ってきたんです。頭の中は「なぜ?」の嵐。残された料理を見ると、自分自身も否定された気がして、落ち込みましたね。

「味つけがダメだったの?」。多分、違います。だって大人は美味しそうに食べていたもの。「中学生の味覚に合わなかった?」。もしかしたらそうかもしれません。ですが、全員の味覚に合わなかったわけではないはず。

では、なぜ大量に残ってしまったのでしょうか。最大の原因は、私の判断ミスだと思っています。中学生の自然学校と書きましたが、そこはオートキャンプ場ではなく、大自然の中でした。福島県・五色沼のほとりで、周囲はブナの木が茂る深い森、磐梯山もそばにありました。当然、野生生物もたくさんいます。そんな環境で、鉄筋コンクリートの建物ではなく、バンガローで3泊4日を過ごします。日常からかけ離れた大自然の中で、大勢の人と寝食を共にするわけです。中学生にとっての野外活動は、たのしいことであり、同時にストレスの高い環境でもあったのです。だからきっと、普段食べ慣れていないアボカドシュリンプは、美味しいとは思えなかったのではないでしょうか。料理は食べる環境や食べる人の気持ち次第で、おいしくもまずくもなります。キャンプの環境や中学生の気持ちへの配慮が足りなかったことが、失敗の要因だったと思っています。

同じような失敗は他にもあります。大自然の中で一晩野営をしたとき、熱湯さえあれば5分で完成するからと、お米ではなくクスクスを持っていきました。このときも、箱のままのクスクスが残っていましたね。多少時間がかかっても、普段から食べ慣れているお米にするべきでした。

アボカドシュリンプもクスクスも、安心できる場所で、安心できる人と一緒に食べたら、そこまで大量に残ることはなかったと思います。実は、キャンプのような過酷な環境でも、なんでもペロリと食べてしまう子どもたちのチームもあるんです。それは、チームの人間関係がうまくいっている場合が多いのです。つまり、安心だと、ごはんをよく食べると言うのが私の考察です。

そこで、私が考える「みんなが好きなごはん」=「みんながおいしいと思えるごはん」は、食べる人が
① 安心して食べられる環境・体調・心持ちであること
② 安心して食べられるメニューであること

安心できる家の中でも、家族とケンカした後のごはんはおいしくないですよね。だから、ケンカをしてしまったときは、慣れ親しんだ味のごはんがいい。逆に、たのしく過ごせた日は、初めて食べるちょっと変わった外国の料理でもたのしむことができるでしょう。

あとは、人それぞれ好みがあります。例えば、スパイスカレーを作るとき、一人でもパクチーが苦手な人がいれば、パクチーは別盛りにする。ニンニクや辛さが苦手な人がいれば控えめに。自分の味を提供するレストランではなく、みんなが好きなごはんをつくりたいなら、つくり手の「好き」を押し付けないことが大切です。みんなの90点の美味しさを目指すことが、みんなが好きなごはんをつくることの100点なのです。90点に仕上げた後、お醤油や塩こしょう、薬味、スパイスなどで、最後にそれぞれが好みの味を完成させる。そんな方法もいいですね。

90点だなんて、点数で表現しましたが、これはあくまで目安です。みんなにおいしいと思ってもらうための思いやりが大切なんです。世でいう「料理は愛情」の正体はこれだと思っています。レストランではなく、家庭での日常、ケの料理のおいしさは、この考え方を大切にするといいと思います。

「言っていることはわかるけれど、どうやったらいいの?」「具体的なレシピはないの?」そんな疑問が頭の中に浮かんでいるかもしれません。ですが、今回はレシピのようなわかりやすい答えを用意しませんでした。どうしたらみんなにおいしいと思ってもらえるか。失敗を重ねて、自分なりに考えるプロセスが大切だと思っているからです。「なぜこの味にしたのか?」を自分の中で整理することで、次はもっと喜んでもらえるごはんにつながることでしょう。

とは言うものの、フードデザイナーとして、誰もが好きな料理のレシピもご紹介したい! ということで、次回は具体的な味付けについてお話しします。味付けのコツがわかると、もっと気軽に、みんなに喜んでもらえる料理がつくれるはず。たのしみにしていてくださいね。

 

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ライター / 蓮池 陽子

東京・雑司が谷出身。ビストロ勤務の後、料理教室で講師を務める。アウトドアで山菜や貝などの山や海の恵みを採取する中で、美味しい物の背景には“美しい自然”や“たくさんの物語”があることに開眼。現在は”食の物語を紡ぐしごと”をコンセプトにケータリング、料理教室、フードコーディネート、メニュー開発、執筆などを行う。

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