SERIES
Food Future Session
2023.01.17. | 

[Vol.3]楽しさがあるから能動的になり、ウェルビーイングにつながる【HITOTOWA 荒昌史 × Yuinchu 小野】

食の未来をユニークな仕掛け人たちと語る「Food Future Session」。今回は、「人と和のために仕事をし、都市の社会環境問題を解決する」をミッションに、地域やマンションでのコミュニティづくりに取り組む HITOTOWA INC.(ヒトトワ)代表取締役の荒昌史さんとMo:takeの座談会です。Vol.3は、地域でのつながりや、つながりを生む場のデザインなどについて、Yuinchu代表の小野と共に日常で感じていることも交えながら語ります。

協定やルールでは人は動かない
楽しいからこそ生まれるウェルビーイング

小野:ネイバーフッドデザインの考え方の中にある、共助の話もぜひ聞かせてください。

 

荒さん:なぜネイバーフッドデザインをやっているかというと、やっぱり助け合いのためだと思っています。住む場所における人々のつながりを考えると、趣味などの楽しいつながりは徒歩圏内になくてもなんとかなるけれど、いざという時に助け合える関係性は近所にないと困るんですよね。

普段は必要性を感じなくても、震災やパンデミックになったときにはじめて「実はこの街で孤立している」「友達がいない」と気づくんです。

 

小野:いざとなってからでは遅いから、普段からつながりを作っておこう、ということですね。

 

荒さん:助け合いが本質だと思っているのですが、助け合える関係性って“助け合おうね協定”ではないと思うんです。震災時に、地域やマンションに防災マニュアルや手引きがあっても、自分の家が大変な時に他人の家の安否確認に行かないですよね。協定では人は動かないんですよ。

でも、もし隣に小野ちゃんが住んでいたら「小野ちゃんは仕事で家を出ている時が多いし、子どもも小さいから大丈夫かな?」と心配になって様子を見に行くじゃないですか。つまり、助け合える関係性って、仲がいい、楽しい関係性なんですよね。

でも、楽しさだけが目的になると、気が変われば別に付き合わなくてもいいと思うこともあります。だから、「楽しさ」と「セーフティネット」という異なることを同時に楽しく成立させるのが本質かなと思っています。そこを文化的に広げていきたいですね。ルールや責任は大事ですが、それだけだと人は動きませんから。

 

小野:楽しくて仲がいいから、いざというときに心配になる、というモチベーションしか、最後は人を動かしてくれないんですよね。

そういった人間関係を生み出す装置や機能が必要なのではないかという発想が、今のYuinchuの事業の根幹になっています。コミュニティをつくるためというよりは、カフェやレンタルスペースという装置や機能によって、自然と人間関係ができるのではないか、という感覚で捉えていたので、すごくわかります。

 

能動性の濃淡を尊重する
「主役性」があるコミュニティ

小野:僕自身、自分の心の状況によっては、ご近所さんとの挨拶がしんどく感じる時があるんですよね。でも一方で、子どもと同じ幼稚園のお母さんに会うと「うちの子もさっき幼稚園に行きましたー!」 とか、軽やかに挨拶ができる。幼稚園という機能が入ることによって変わるんですよね。

 

荒さん:挨拶が義務とか、べき論が先行すると、つながりがしがらみ化しやすいんですよね。もちろん、挨拶はした方がいいと思うのですが、必ずしなければならない、となった時に重くなる。能動的にできるかどうかですよね。

 

小野:義務と能動って、人によって色々な濃淡がありそうですよね。そういうグラデーションを持ちながら関われるのがコミュニティなのかもしれないですね。

 

荒さん:著書の『ネイバーフッドデザイン ― まちを楽しみ、助け合う「暮らしのコミュニティ」のつくりかた』ではそれを「主体性のデザイン」と呼んでいますが、1人ひとりが主役と捉えると、主役性という言い方もあります。

 

小野:主役性っていい言葉だと思いました。

 

荒さん:濃いのが好きな人もいれば薄い方が好きな人もいるし、場面場面で使い分けたい気持ちもありますよね。僕は今住んでいるエリアに仲のいい人がたくさんいますが、毎週飲み会をやりたいわけではなく、たまに集まって一緒にご飯を食べるような関係が幸せだと思います。

人間関係の濃淡や、誰と付き合うかは、自分で選択していいと思うんですよね。両隣の人と必ず仲良くしなくちゃいけないとなると、しんどいです。

この仕事をしていると、昔の日本の長屋文化と比較されることが多いのですが、当時は隣近所と仲良くしなければ生活が保てなかったんですよね。そういった長屋的なつながりを取り戻したいわけではなく、科学技術の発達やサービスの充実によって失われている本来的な人間性が必要なんじゃないかと。やっぱり根本的に、人は一人では生きていけないですから。

カフェで、テイクアウト用のカップに手書きのメッセージが書いてあるとほっこりするじゃないですか。それって逆に言えば、その他に人間味を感じる場が少なくなっているってことですよね。

 

小野:確かに人を感じる場は不足していると思います。でも、コーヒーのカップに書かれたメッセージって、マニュアルだからやってる人もいれば、心からやってる人もいて、そこにも気持ちのグラデーションがありますよね。

 

荒さん:でも、なんとなく分かりますよね。この人マニュアル通りやってるなー、とか。

 

小野:本能的に感じる能力が人には備わってますよね。その感覚が鈍らされる生活をしているだけで、本来はみんな持っている気がします。その能力を育みたいですね。

 

近所のラーメン店にいた
荒さんが「スカウトしたい子」とは

荒さん:先日、家の近くのラーメン屋に行ったら、一人の店員さんがコミュニティビルダーっぽい動きをしていたんですよ。自分からお客さんに話しかけたり、ちょっとした会話をつないだり。

 

小野:そういう動きができる人はなかなかいないですよね。近づきすぎず、遠すぎない距離感がいいですね。

 

荒さん:僕は「もっとコミュニティが必要な場所で働いたらいいのに、もったいないな」と思ったんです。でも、コミュニティ作りを行う場で雇用を創出しているところが少ないんですよね。

 

小野:コミュニティビルダーって、売上という数字で評価しづらいので、定量評価が難しいんだろうなと思います。だからこそ、その人の向上心に対して関わる場を増やしてあげることが正解なのか、場のサイズを大きくすることが正解なのか、現場ではなく概念作りに参画させることが大事なのかーー、ということをビジネスでやっていくのは難しいなあと思います。

 

荒さん:そうですね、生産性という意味では難しいですよね。赤羽駅を降りたところにあるパン屋にも、コミュニティビルダーとしてスカウトしたい子がいるんですよ。

 

小野: 荒さんの中でスカウトしたいと思うのはどんな点ですか?

 

荒さん:お客さんとしてではなく、◎◎さん、という人に対してちゃんと話せる人ですね。でも、コミュニケーション能力だけではなく、裏側では継続に必要なお金のことも理解している人。そこはジレンマなんですけどね。

 

飲食が組み込まれたデザインが
一人で場に入ることを可能にする

荒さん:ネイバーフッドデザインや助け合う関係性を当たり前にするという観点で見たときに、僕らが運営するコミュニティスペースやそれに関わる団体が全国に一気に広がるかというと、拡大路線はなかなか難しそうです。そう考えると、ラーメン屋とかパン屋の人みたいに、温かみのある人がたくさんいる社会になるといいなーと思いますね。

 

小野:めちゃくちゃわかります。

 

荒さん:そして、それをやれるのは飲食領域なのかなという気もしています。

神奈川県住宅供給公社の賃貸マンション「フロール元住吉」では、一部の空間をコミュニティスペース「となりの.」として地域に開放しています。カフェを経営しながらマンションの管理をする守り人がいて、マンションと地域のハブになっているんですが、そこで僕が一番大切だと感じているのは、1人でも行きやすい場所であることなんです。

 

荒さん:ネイバーフッドデザインの価値は助け合いと言いましたが、潜在的に孤立をしていたり、そのことに気づいていないような人たちに対して、自然な形で機会を提供していくことが最も重要だと思っています。そう考えると、すでに人間関係を築いている人が使いやすいスペースというより、一人で入れる場所であることが大事です。

一人で来た人にとって、その場所がちょっとずつ居場所になっていくデザインをすることが大事で、そのためには、「ただコーヒー飲みに来ました」、「ご飯食べに来ました」と言えることが必要なんですよね。性別で分類するのはナンセンスなところもありますが、やっぱり相対的には男性の方が孤立しやすいんです。なぜかというと、恥ずかしいんですよ。

 

小野:そうなんですよ。恥ずかしくて寂しいとか言えないし、歳を取ればとるほど、寂しいなと思っちゃうこと自体が寂しい。だからこそ「寂しいから来ました」と言わせない仕組みが必要で、「僕はコーヒーを飲みに来ています」と言えることが大事なんですよね。

 

荒さん:目的とか機能というか、一人でいることを自然にさせるデザインですね。

 

次回は1/19(木)に公開予定です。最終回となるVol.4では、コミュニティにおけるカフェという機能ついてYuinchu代表の小野と語り合います。(つづく)

 

– Information –
HITOTOWA

書籍「ネイバーフッドデザイン

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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