「ポン・デ・ライオン」の誕生秘話
ーー広告代理店時代にミスタードーナツのキャラクター「ポン・デ・ライオン」を手がけられたんですよね。
堀内さん:実は「ポン・デ・ライオン」は、僕の自主提案から始まったんです。当時、ミスタードーナツさんを担当していて、毎月おまけキャンペーンのデザインや店内のポスターを作ったりしていたんです。当時のミスドというと、もらえる「おまけ」の印象が強かったですね。
おまけのキャンペーンは年12回以上やる年もありました。そうなると、「ドーナツ」よりも「おまけ」のコミュニケーションの方が多くなりますし、おまけでもらえるキャラクターグッズも「ピングー」や「セサミストリート」などドーナツとは直接関係ない。そこに疑問を感じ、若かりし自分は「おまけなんてやめたらいいんじゃないですか?」って担当者に詰め寄ったりもしたんですが、売上のデータを見せていただくと、おまけの効果は確かにしっかりとあって、プロモーションの効果が実証されていたんです。それは止めるわけにはいかないですね、と。ビジネスにはいろんな側面があるんだ、ととても勉強になったことを覚えています。
でも、おまけじゃなくて「ドーナツを主役に」って気持ちは強く持ち続けていて、それならば、おまけという「販促」が、ミスタードーナツの「ブランド」の価値にもう1回戻っていくような仕組みを作れたらいいなと思いました。そこで考えたのがドーナツをモチーフにしたオリジナルキャラクターの開発です。ミスドのドーナツをモチーフにしたキャラクターのおまけをもらった人が、それを見てもう1回ドーナツを思い出してくれて、またあのおいしいドーナツが食べたいと思ってくれたらいいな、と思ったんです。
そこで、オリジナルキャラクターの提案をしました。2年ぐらい自主提案し続けた後、いろんな都合やタイミングが合い、あの「ポン・デ・ライオン」が生まれたんです。
広告表現ながらも、プロダクトとして制作している
ーー「ポン・デ・ライオン」のキャラクターも堀内さんのデザインですね。作る際に気をつけたことはありましたか?
堀内さん:「ポン・デ・ライオン」の出てくるCMは、立体のストップモーションアニメにしたんです。それも、やはり「ドーナツを主役にする」という思いからでした。2次元のアニメだとキャラクターのかわいさは表現できても、ドーナツのおいしそうなシズル感が表現できない。お金と手間はかかりましたけど、立体で作ればドーナツの美味しそうな質感までダイレクトに表現できる。ですから、その表現はこだわりました。
その後、仲間となる複数のキャラクターを作ったんですけれど、自分の中で守ったルールがありまして。それはキャラクターたちを並べたときに、それぞれのモチーフとなっているドーナツの大きさの比率を絶対に変えない、ということです。キャラクターを優先してドーナツの大きさを自由に変えてしまうデザインもあると思うのですが、「ドーナツを主役に」が一番守るべきミッションだったのでその制約を絶対に守ってデザインを開発しました。キャラクターはあくまでドーナツの魅力を伝える伝道師であって、、商品の方が大事ということです。
「ミスタードーナツ」という企業の「真ん中」は、どう考えてもドーナツです。ドーナツが一番の価値なんだから、そこに戻したかったんですよ。今も、デザインするときは常に企業や商品の一番大事な価値は何かを考えたうえで造形を考えるのが、僕のデザインのポリシーになっています。自分の持ってるデザインの力でビジネスに貢献したい。そして、ビジネスだけでなく、社会課題に対しても貢献したいと思っています。
もう一つ、「ポン・デ・ライオン」というキャラクターは、広告表現でありながらミスタードーナツのアセット(財産)になってるところが面白いな、って思います。。広告表現ってフローなコミュニケーションとして流れていくものですが、キャラクターは価値としてストックされていきます。そういう意味では、企業のプロダクトを作るのと実はあまり変わらないのかもしれません。そういうデザインの関わり方が僕は好きです。
僕は広告代理店にいましたが、広告よりもプロダクトを制作したいという志向がもともとあったんだと思います。だから今でも「休日COLA」やキッチンカー事業などの、プロダクティブな活動は自然に取り入れてしまうんですね。
切羽詰まった状況でもネタ的に考えてみる
ーー意図せず、クラフトコーラやキッチンカーの事業を始められたとおっしゃいましたが、さまざまな制限がある中でも、アイディアを生み出していく考え方について教えてください。
堀内さん:僕は、別にデザインが一番大事だと思っているわけではないんです。目的が達成されてるんだったらデザインなんかなくてもそれでいいと思うところがあって。デザインはあくまで手段。それよりもみんなが楽しく働けるとか、楽しく生活できればそれで良くって、それを手助けするために、たまたま自分にデザインのスキルがあるという感覚です。
切羽詰まった状況になっても、それをネタ的に考えるといいんじゃないでしょうか。今ある状況や環境の中でも達成したいことは何かな?と上位概念を考えて構造化します。階層を作って考えることで、「ここは気に食わないけれど、それは些末な問題で、より大きな目標が達成できたらいいんじゃない?」と思えるんですよね。そんな風に俯瞰して客観視するとやるべきことが見えてくる。
自分の中ではデザインって重要な要素ですが、同時に、デザインは目的を達成するための一要素であるということも認識しています。例えば、ディレクターとしての自分と、イラストレーターとしての自分がいて、ディレクターの自分がイラストレーターの自分に発注してるみたいな感じ。それぞれのモードは分かれていつつ、シームレスに行き来しているんです。
「なんかいいよね」に囲まれていきたい
ーー今後について希望や展望を教えてください
堀内さん:自分の生活の楽しさとビジネスとがシームレスになるといいなと思っています。「STUDIO HOLIDAY」という屋号なのに、僕はなんだかんだワーカホリック気味なのでほっとくと延々と仕事しちゃうんですよ(笑)。でも、もう自分の会社なんだから、もっと自分の好きなことをやったらいいんだと。趣味でもありながらそれが仕事にもなっていて、仕事なんだけどそれが趣味にもつながって、という感じでやっていけたらと思っています。自分が素敵だなと思えることが何かビジネスとして成立して、ビジネスという手段でいろんな人にその魅力を伝えることができる状態になったらいいですよね。
キッチンカーでお弁当を売って、それを美味しそうに食べてくれる人がいて。引いた視点で見ると、とてもいい風景じゃないですか。みんな楽しそうだし、キッチンカー自体、すごく幸せ感がありますよね。誰かに美味しいご飯を届ける、呑気なのぼりがはためいている感じとか、のんびりしていいなと思います。
僕、ロジックは得意なんですが、そこに根拠を問わずに「なんかいいよね」と思えることをどんどん注入していきたいなと思っています。ロジックだけだと行きつかないところがたくさんあります。仕事をしながらも「なんかいいよね」に囲まれて生きていけたら、最高ですね。
僕自身、クラフトコーラを開発するためのキッチンの物件に内見に行かなかったら、キッチンカーは絶対やっていなかったわけで。その発想はロジックからは絶対出てこないですから(笑)。でも、そんなアクシデントが起こったときは一旦それに乗っかってみて、そこからロジックを作っていけばいいわけで。面白いですよね。今後もそういうアクシデントな出会いは積極的に取り入れていきたいです。
3回に渡って堀内さんにお話をうかがいました。デザインのためのデザインではなく、事業やビジネスありきのデザインを心がけてきた堀内さんだからこそ、アクシデントのようにやってきた事業のチャンスに飛び込んでいけたのかもしれません。ロジックを持ちながらも「なんかいいね」を許容できる懐の深さで、さまざまな出会いを昇華させていく堀内さんの今後の活動も注目です。
– Information –
株式会社STUDIO HOLIDAY
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