2020.08.18. | 

[第5回]食材の「損切り」と向き合い、冷蔵庫を魔窟にしない

29歳で子どもを産み、母親になった界外亜由美さん。ワーキングマザー歴も10年以上になるそうです。そんな界外さんが、働きながらごはんをつくって暮らす日々の中で気づいたこと、やってみたことを語る「働いて、ごはんをつくって、たのしく暮らす」コラムです。

あなたの家の冷蔵庫は、なにが入っていますか?

うちの冷蔵庫には、醤油やポン酢、ソースなど、開栓後は冷蔵保存したほうがいい調味料、キムチやべったらなどの漬物、ごはんの友、使いかけの鰹節、昨日引いた出汁、豆腐ハンバーグやかぼちゃの煮物、青菜炒めなどの作り置きおかず、バター、チーズ、豆腐、卵が入っています。

正直に言うと、ちょっとごまかしました。ずっと前から入れっぱなしのらっきょう漬けと紅生姜、半分使って使い道が見つからないまま放置しているこんにゃくも入っています。野菜室では、醤油漬けにしようと思って手付かずのえごまの葉がそろそろしなびそう。長ネギは中の芯が太くなってきてるかも。

冷蔵庫は、魔窟になりやすい場所です。もう食べられないものでも、捨てると決めるのは勇気がいるからです。「量が多くて使い切れなかった」。「食材を買ってあるのに外食してしまった」。「せっかく作った作り置きだけど、数日食べたら飽きてしまった」。こうやって書くだけでも後ろめたい、食材のロス……。小さい頃から食べ物を粗末にしてはいけないと習ってきたし、お金を無駄にすることも辛い。捨てると決めなければ、見て見ぬ振りができる。そんな気持ちが、冷蔵庫を魔窟にするのです。

どれだけ料理上手でも、ロスを出さずに料理を作れる人はいないでしょう。そして、食材の使い回しやロスの減らし方は話題になりますが、食材の捨て方について書かれたものはめったにありません。だからこそ今回、食材も時々「損切り」が必要だと、あえて言ってみたくなったのです。

「損切り」と書きましたが、みなさんはこの言葉を知っていますか? 株式投資の用語です。ちなみに私は投資についてまったく詳しくありません。名門進学校に通う中学生が学校の資産を運用し全校生の学費を賄う『インベスターZ』という名作漫画があるのですが、そこで知った言葉です。

「損切り」とは、損失を確定すること。例えば、ある銘柄の株を1株1000円で買ったとします。その後、株価が900円に値下がりしたら、どうしますか。買った時より値上がりするまで待ちますか。売らない限り損失は確定しないけれど、その期間は資金が手元にないので、新しく株を買うことができません。どんどん機会を失ってしまいます。でも、金額が大きくなればなるほど、自分が損をしたと認めることは辛いもの。最初から「損失がこのパーセンテージになれば損切りをする」とルール化しておき、感情に惑わされずルールを運用できる人が投資の世界では強いそうです。

それを知ってから、私は自分の力不足で使い切れなかった食材を「損切り」と思いながら捨てるようになりました。

もちろん、上手に食材を使いまわし、最後まで食べ切る方がいいに決まってます。でも、その気持ちが大きくなりすぎて、冷蔵庫を魔窟にしてしまうなら、時々「損切り」した方がいいと思いませんか。鮮度の落ちたもの、もう食べられないものを処分し、冷蔵庫のスペースが広がると、気持ちが軽くなります。「これからも、食材をダメにしてしまうことはあるだろうけど、楽しくごはんをつくって生きていこう」。そんな心持ちになるのです。

長かった梅雨も明け、一気に夏らしい季節になりました。夏バテで食欲が落ちたり、食材の痛みやすい季節でもあります。そんな時こそ、冷蔵庫に眠る食材の「損切り」をしませんか。食材に向き合い、時には「損切り」しながら、毎日元気に食べていきましょうね。

ライター / 界外 亜由美

数社の広告制作会社でクリエイティブ・ディレクター/コピーライターとして活動。2018年2月14日、mugichocolate株式会社を設立。コピーライターとして培った言葉の力と、デジタル・ソーシャル・マーケティングを掛け合わせた、総合的なコミュニケーション設計を行う。夫と2008年生まれの息子の3人家族。料理、お酒、詩歌が好き。