2020.05.26. | 

[Vol.1]コロナに負けない。そして、今ここから始める。「Mo:take」ヘッドシェフ 坂本英文 ×「Yuinchu」代表 小野正視

前回、二人をインタビューしたのは半年ほど前。そのときは、こんな時代がくると誰が想像したでしょうか。新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、日本では緊急事態宣言が発令され、飲食業界は特に大きな影響を受けました。「Mo:take」も厳しさに直面したと、Mo:takeヘッドシェフの坂本英文(さかもと・ひでふみ)と、Mo:takeを運営する株式会社Yuinchuの代表、小野正視(おの・ただし)は言います。具体的に何が起こりどう考えてきたのか。まずは事実を語ってもらおうと、オンラインインタビューを行いました。

人が集まるケータリングがピンチ
3月の予約はほぼゼロに

飲食店の営業自粛や営業時間の短縮など、新型コロナウイルスの影響が広がったこの春。Mo:takeはどんな状況だったのでしょうか。

 

小野:Yuinchuは、レンタルスペースやクリエイティブ関連の事業など、さまざまな事業を行っていますが、ケータリングサービスのMo:takeが最も早く影響が出ましたね。政府から、「3密」(1.換気が悪い密閉空間、2.多くの人が集まる密集場所、3.互いに手を伸ばしたら届く距離での飲食や発生が行われる密接場面)を避けるようにと勧告が出されていましたが、Mo:takeは、まさに「3密」なんですよね。同じテーブルに並ぶ料理をみんなでシェアすることが懸念され、新型コロナウイルスが本格的に騒がれ始める3月よりも早く、2月中旬くらいから予約が減り始めていました。

坂本:2月の後半には100人規模くらいの予約がどんどん減っていきました。

小野:それでも最初は、「そのうち落ち着くだろう」と思っていました。今はコロナに関する情報が出たばかりだからキャンセルが多いんだろうと。でも、3月に入ってからは、Mo:takeの事業プラン自体の変更を検討する状態になりました。

坂本:3月は予約がほぼゼロだったので、考えざるを得ませんでした。

 

この短期間で、一気に「ゼロ」になったことへの驚きを隠せません。

 

小野:一つのテーブルを大勢で囲んで料理を食べるという行為がMo:takeの価値だったので、感染症予防の観点から大きく影響が出ましたね。大きな会場で大人数が集まることだけでなく、小さい会場に少人数で集まることも、密集度が高いということで、結局どちらのニーズも一気に縮小していきました。

 

 

需要はすぐには戻らない可能性が高い。
経営方針を大きく転換

緊急事態宣言が発令されてからは、世の中の飲食店はテイクアウトやデリバリーなど新しい取り組みを始めざるを得ない状況になりました。その中で、Mo:takeはどんなふうに向き合ってきたのでしょうか。

 

小野:経営方針を大きく変えて、3月中旬にメンバーに伝えました。これからも感染予防が続く中で、ケータリングの需要はすぐには戻らないと予測を立てたんです。ケータリングは、いわゆる集団、人数が集まるところに料理を提供することが強みでした。でも今後は、個人や少人数のニーズにこたえられるようなサービスが残っていくと感じています。だから僕たちも今までのやり方を変えて、一人ひとりのニーズに沿ったサービスを提供するために動こう、といった話をしました。

坂本:Yuinchuはケータリング事業のMo:takeのほか、コーヒースタンドのような小さめのカジュアルな店舗の運営もしてきたので、まずはそこでお弁当を出すことから始めようと。
実は、僕たちが運営を受託している渋谷のコーヒースタンドで、ランチを提供してほしいというオーダーがコロナ以前からあったんです。2月中旬から準備を始めていたんですね。そういう経緯があったので、すべてを切り替えたという意識ではなかったですね。

 

コロナ以前から要望があって始めたものが、新しい経営方針にもぴったり合うことに気づいた小野と坂本。ほかの拠点でもお弁当の展開をはじめたとのこと。

 

小野:僕らがメインでやっていたのは、表参道にあるアンテナショップ「the AIRSTREAM GARDEN」なのですが、表参道はかなりインバウンド需要の高い街なんです。そういった特徴から、「the AIRSTREAM GARDEN」はカフェラテがたくさん出るコーヒースタンドっぽいお店だったのですが、コロナで一気に売上が落ちてしまって。

坂本:表参道は観光需要が多く、小売店や美容室など、外から人がやってくる場所なので、真っ先に影響が出た街だったと思います。

小野:次に、渋谷で「オンラインとオフラインの体験をつなぐ」というコンセプトで展開していた「000Café」の営業を止めました。オーナーの東急不動産さんと話し合いながら4月中旬まで営業をして、緊急事態宣言が出るくらいまで粘ったのですが、東急不動産さんが持っている大型商業施設が営業を止めた時点で「000Caféだけ続けるのもおかしいよね」となり止めました。営業を続けていた時はお弁当も販売していましたが、それも止めました。

 

「000Café」は今も休業している状況でしょうか。

 

小野:緊急事態宣言が延長されたので今も止めています。東急不動産さんとも、「心の底ではやりたいよね」といった話を何度もしました。でも、社会全体のことを考えると、そういうわけにはいかないよねって。実際、営業を続けていた後半は、ほとんどお弁当しか出ていなかったのもあります。

緊急事態宣言以降、がらんとしている渋谷の映像が何度もメディアで流れていました。渋谷の象徴的なシーンとして、いつもは多くの人がスクランブル交差点を埋め尽くしている映像を見かけるのですが、誰もいないスクランブル交差点が閑散とした街の象徴となっていました。

小野:そうなんですよね。渋谷からどんどん人がいなくなりました。

 

 

エリアや店舗によって判断が違う。
大変だけど、気づきもあった

小野:実は、どの店舗も2月、3月ともに良い状況だったんです。2月から僕らが新しく運営を任せてもらった店舗もあったのですが、徐々に盛り上がり始めていました。だからこそ、切なかったですよ。お弁当もたくさん出るようになっていたし、近隣の人たちにも認知され始めて、「最近いい感じだね」って声をかけてもらったりすることが増えていたので。わずか数ヶ月で一転してしまいました。

「どうしてそんなことが……」。お話を聞いているだけでも、残念な思いでいっぱいになります。

 

小野:でも、僕たちが運営を任されているお店が数店舗あるのですが、エリアや形態によって、それぞれ状況が違うんです。3月中旬にグランドオープンした「OPEN NAKAMEGURO」は、今も営業していますし、お客さんもいらっしゃいます。中目黒は外から遊びに来る人もいますが、人が住んでいる街でもあります。今、自宅勤務をしている人たちが、「OPEN NAKAMEGURO」のオープンエアーな雰囲気なら、たまには息抜きに行けるんじゃないか、コーヒーのテイクアウトだけでもしたいなって思える雰囲気なんですよね。自宅待機期間の心のオアシスのような存在になっているんだと思います。その期待に応えられるよう、店内を換気したり、席と席との間隔を広くするなど、衛生にはかなり気を配って営業しています。

 

営業自粛、営業時間の短縮が要請されても、すべてのお店を閉めなければならない、というわけではありません。エリアや店舗業態に合わせて、衛生を保ちながらお客様のニーズにこたえ続けているお店があるのは、お客様にとっても安心できることなのではないでしょうか。

 

小野:そう思っています。もう一つ、国分寺のカフェ「SWITCH KOKUBUNJI」は、テイクアウトの需要がかなりあります。換気をよくして、席を減らして距離感を保ち、営業時間も短縮していますが、地域のお客様から必要とされていることが強く伝わってきています。
2年間運営する中で、そういう関係ができたことを、いま改めてうれしく感じています。近隣の農園で栽培されている野菜「こくベジ」さんの受け取り場所としても使っていただいています。こんな風に、地域軸の取り組みにも一緒に加わらせていただいたりしています。

一つひとつ丁寧に語る小野。しかし、どのお店も一つとして同じ状況ではなく、個別の判断をしてきたのは、相当大変なことだったのではないでしょうか。

小野:そうなんです。僕たちだけの判断だけではなく、オーナーさんや、利用してくれるお客様の意向もありますから。一つひとつ、きちんと応えたいと思ってやってきました。

 

新型コロナウイルスの影響が広がって、いったん、Mo:take MAGAZINEも記事の更新をお休みしていました。Mo:take MAGAZINEの再開は、Mo:take自身のお話から始めよう、ということで「どう過ごされていましたか?」の一言から始まったインタビュー。小野と坂本の話は、聞いているだけで胸が苦しくなる場面もありました。でも、一つひとつのお店、一人ひとりのお客様に真摯に向き合っている二人の姿に力強い底力のようなものを感じ、勇気をもらいました。次回は6/2(火)に公開予定です。今回起こったことをふまえて、二人は新しい取り組みを始めるのですが、それは一体どんなことでしょうか。お楽しみにしてください。(つづく)

ライター / たかなし まき

愛媛県出身。業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。人の話を聴いて、文章にする仕事のおもしろみ、責任を感じながら活動中。散歩から旅、仕事、料理までいろいろな世界で新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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