
何をつくるか決まっていない。でも、買う
被害の全容もまだ見えないなか、「まずは生活が先」と考え、すぐに誰かを探して連絡するのではなく、1週間待つことを選びました。そして1週間後、以前から参加していた農林水産省の「農業女子プロジェクト」を通じて、熊本で困っている生産者がいないか尋ねます。
そこでつながったのが、熊本県宇城市不知火町「のむちゃん農園」の野村早苗さんでした。
地震の揺れによって、育てていたシャインマスカットの房に打ち身ができ、そのままでは出荷できないものが出ていたのです。
8月6日に野村さんとつながりその翌日、haveは出荷できなくなったシャインマスカットをすべて買い取ることを決めました。
でも、この時点では、そのシャインマスカットで何をつくるのかは決まっていませんでした。一般的な商品開発なら、まず何をつくるのかを考え、レシピを決め、それから必要な食材を仕入れていく。おそらく、そんな順番になるはず。でも今回は、その順番が逆でした。
目の前には、行き先を失ったシャインマスカットがある。何をつくるかは、まだ決まっていない。それでも、自分たちにできることがあるなら、まず買おう。商品を考えるのは、そのあと。そんなところから、この取り組みは始まりました。
届いたシャインマスカットを、まず一粒。食べてみると、甘く、驚くほど瑞々しい。房としては出荷できなくても、味は何ひとつ損なわれていませんでした。
そこで考えたのが、「このおいしさを、どうすればそのまま届けられるだろう?」ということ。シロップに漬ければ保存しやすくなり、ピューレにすれば店舗でも扱いやすくなる。でも、手を加えれば加えるほど、最初に食べたあの一粒から遠ざかってしまう。だからこそ選んだのが、できるだけ手を加えず、そのままジュースにする方法でした。
砂糖も、香料も、着色料も、保存料も使わない。そうして完成したのが、「そのまんまシャインマスカットソーダ」をはじめとする3種類のドリンクです。

色が変わっても、そのままで
ところが、シャインマスカットを搾ってしばらくすると、鮮やかな黄緑色だった果汁が少しずつ茶色く変化していきました。
ぶどうに含まれるポリフェノールが空気に触れて酸化するためです。見た目だけを考えれば、色を保つ方法もあります。でも、そのためには何かを加えなければならない。
そこで選んだのは、色が変わっても、あえて何も加えないことでした。そして店頭では、その色を隠すのではなく、「なぜ、この色なのか」まで伝える。きれいに見せることよりも、その一杯がどうやってできたのかを伝えることを選んだのです。
「支援」ではなく、いつもの仕事で
今回の取り組みで印象的だったのが、この企画を決して特別なこととして捉えていないことでした。行き先を失った果物を、きちんとした価格で買い、おいしい一杯にして、お客様へ届ける。
仕入れて、つくって、売る。それは、飲食店が毎日やっている仕事です。でも、その当たり前の仕事が、状況によっては産地の力になる。そしてお客様も、何か特別なことをしなくても、「おいしそうだから飲んでみたい」と一杯を選ぶことで、その先にいる生産者と自然につながることができます。
「支援する人」と「支援される人」という関係だけではなく、つくる人がいて、料理する人がいて、それを食べたり飲んだりする人がいる。そんな普段の食の流れのなかにも、誰かを支える方法があるのかもしれません。

「果物は、待ってくれない」
そして、この取り組みをもう一段深く考えさせてくれたのが、野村さんの言葉でした。
地震発生後、「まずは生活が先」と考え、すぐに連絡を取るのではなく1週間待つことを選んだ今回の企画メンバー。被災したばかりの状況で連絡することで、かえって相手の負担になってしまうかもしれない。そんな相手を思っての判断でした。
一方、野村さんから返ってきたのは、
「果物は、待ってくれないので、スピード感がとてもありがたかったです」
という言葉。人の生活が落ち着くのを待っている間にも、畑では果実が熟していきます。
傷んだ粒を一つずつ取り除き、残ったものを小さなパックへ詰め直す。地震から時間が経ったあとも、そうした作業は続いていたといいます。
生活が落ち着くまで待つことも、もちろん相手を思ってのことです。
でも農家にとっては、畑やそこで育つものも暮らしの一部。人の生活が落ち着くのを待っている間にも、果実は熟し、収穫のタイミングはやってきます。
そう考えると、同じ「相手を思う」でも、立っている場所によって見えている時間は違うのかもしれません。
「果物は、待ってくれない」。
野村さんのその一言から、普段私たちが食べているものの向こう側にある、生産者の時間が少しだけ見えたような気がします。
何かが起きる前から、知っておく
今回、熊本の農家とつながることができたのは、もともと野村さんと知り合いだったからではありません。その間をつないだのが、2025年から参加していた農林水産省の「農業女子プロジェクト」でした。
これまで鹿児島のさつま芋や知覧茶、愛知や北海道のとうもろこしなど、各地の女性農業者と一緒に商品をつくるなかで、少しずつ生産者とのつながりを広げてきました。
だから今回も、地震が起きてからゼロから生産者を探すのではなく、
「熊本で困っている生産者はいませんか?」と聞ける相手がいた。そのつながりの先にいたのが、野村さんでした。今回の出来事を見ていると、何かが起きたときだけ誰かとつながろうとするのではなく、普段から、どこで、誰が、どんなものをつくっているのかを知っておくことも大切なのだと感じます。
食に関わる人たちとの普段からのつながりが、思いがけないところで誰かの力になることもあるのかもしれません。

『のむちゃん農園×食堂カフェpotto』の取り組みを〝今〟届けたい理由
今回、最初に目に留まったのは、
「地震で出荷できなくなったシャインマスカットを、飲食店が買い取ってドリンクにした」というニュースでした。それだけでも素敵な取り組みだと思います。
でも、背景を知っていくうちに僕が気になったのは、「被災地支援」という言葉だけでは収まらない部分でした。相手のことを思って、すぐに動くのではなく1週間待ったこと。そして農家さんから返ってきた、「果物は、待ってくれない」という言葉。
ただ、その言葉を知ったことで、普段食べているものの向こう側には、僕たちとは違う時間のなかで働いている人たちがいることに、改めて気づかされました。
そしてもうひとつ、この取り組みを届けたいと思った大きな理由があります。
それは、何か特別な支援の仕組みをつくったのではなく、「仕入れて、つくって、売る」という、飲食店がいつもやっている仕事が産地の力になったこと。
おいしいものをきちんと買い、それをおいしい一杯にして届ける。そして僕たちは、「おいしそう」と思ったものを選び、おいしくいただく。
そんな普段の食の流れのなかにも、誰かの力になれる方法がある。今回の取り組みを知って、「支援する」ということを、少し難しく考えすぎていたのかもしれないと思いました。
何か特別なことをしなくても、まずは、つくっている人を知ること。その人が育てたものを食べてみること。そして、おいしかったら誰かに話してみること。
そんな日常の延長にも、つくる人と食べる人がつながるキッカケはあるのかもしれません。
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