「ブーム」ではなく「定番」になった、ランニング
10年ほど前に「ランニングブーム」が起きてから、いまや、ランニングは「ブーム」ではなく、定番となりました。街でランナーを見かけるのも珍しくない毎日ですが、それでも、多くの人にとって「走る」ってハードル高くありませんか?
そんな心のハードルをフッと下げてくれるのが、「Runtrip via(ラントリップ ビア)」というイベント。マラソン大会のようにランナーたちが一斉にスタートするのではなく、決まっているのは「ゴール」だけ。「○時までに□□へ集合」という目標があり、それに合わせて好きな地点から、好きな距離と時間で走ってくる、というものです。数十キロ先から走ってきてもいいし、1キロ先から歩いてきてもいい。ランナー(あるいはウォーカー?)のレベルは問わずに、一緒に楽しめるのです。
数値を追わないランニングの楽しさがもっとあっていい
「Runtrip via」を提供しているのは、ランニングコースの共有サービス「Runtrip」も展開している株式会社ラントリップ。その代表の大森さんは、なんと元箱根駅伝のランナーでした。
大森さん:一般生として大学に入って、スポーツ推薦の選手の中で4年目でギリギリ箱根駅伝に出ました。そのときは、苦しくて辛すぎて、二度と走りたくないと思いましたね。1月3日に箱根駅伝が終わってから、走らない生活が4年くらい続いたんですけど、時間が経って、ふと、順位とか距離とか数字ではないところに、走る楽しみがあるんじゃないかと思ったんです。数字を更新する楽しみはもちろんあるんですが、そうでないところがもっと評価されてもいいなと。
いわゆるエリートランナーと呼ばれる選手が走ることから距離を置くことで、「数値を追わない」楽しみがあると気づいたとき、それでもどこかで持ち続けていた「走ること」への愛情が、体験の共有という形でサービスに現れたのかもしれません。
大森さん:サーファーが、サーフトリップするみたいに、ランナーがラントリップするカルチャーがあってもいいな、と思ってこういう会社を作っています。
市民ランナーのなかでは「サブ3(フルマラソンを3時間切って2時間台で完走する)」という言葉もあるくらい、数値的な記録を目標においている人も多くいます。団体スポーツではなく、一人でできてしまうスポーツがゆえに、「時間」や「距離」を目安にしてしまいがちです。もちろん、明確な目標でモチベーションを保てる利点は大いにあります。
しかし、大森さんはランニングの楽しさってそれだけなのか?と感じていました。実際、市民ランナーの中でもタイム至上主義が薄れている流れもある。街中で着ていて恥ずかしくないおしゃれなランニングウエアも多い。ランニングをうまくライフスタイルに取り入れている人、そして、取り入れたいと思っている人も増えてきているのではないかと。
そんな人たちが「Runtrip via」を提供することで、さらに増えていっているようです。
いろいろな人たちの「軌跡」がとりもつ、新たな出会い
「Runtrip via」でのイベントは、参加者がアプリを使います。イベント開催日のAM0時からアプリが起動でき、そこから、ユーザーの移動の軌跡が残っていきます。
そして、同じイベント参加者はお互いの位置なども把握できるので、イベント会場(ゴール)に着く前に知り合いになってくるという場合もあるとか。参加者の移動の軌跡は、動きもわかるので、どんな道をどれくらいの速さで走ってきたのかもわかります。
大森さん:とんでもないところから走ってきたりする人もいれば、明らかに途中で電車に乗っていたり。僕たちは『ワープ』って言っているんですけど(笑) でも、それも全然OKなんですよ。また、友達と来ている人は、待ち合わせの合流地点もわかったりして。その2人が、途中立ち止まっていたので『何していたんですか?』と聞いてみたら、『神社に行っていました』と教えてもらったり。途中でSUPする人もいて、GPSの軌跡が海の上をたどっていたり。1回家に帰って、息子さんの料理を作って送り出してから、また来たという方もいました。途中で、何してもいいんです。ネタ作りで仕込んで来ている方もいるかな?(笑)
ゴール会場では、ファシリテーター的役割をしてくれる人が仲をとりもってくれるそうで、参加者の交流がどんどん進んでいくとのこと。ここで知り合って、ホノルルマラソンに一緒に出たというランナーもいるそう。
ハッとさせられた「食」のインパクト
「ランニングをして楽しむ」だけでなく、コミュニティーが新たに作られるきっかけにもなる「Runtrip via」。これは、株式会社ラントリップが作った「仕組み」なので、主催者はいろいろな団体です。スポーツブランドはもちろん、飲食店や、商業施設、音楽フェスの主催者などが開催するというスタイルをとっています。
先日は、地域のコミュニティ活性として、横浜市瀬谷区でも開催されました。地域活性の任意団体が、あまり使われていない場所を活性化するために地域の人のためのイベントをということで開催し、50名ほどの人たちが集まったそう。その際にゴールを彩ったのは、Mo:takeのケータリング。
瀬谷の農家さんから育てた野菜を使ってほしいというオーダーがあり、Mo:takeのシェフが考案したのが「食べられる土」。まるで土のような形状のドライドレッシングのような調味料です。開放感あふれる野外のゴール会場で「農家さんが育てた野菜」をイメージできる、ストーリー性のあるメニューです。
「あまりにリアルすぎて、みなさん食べるのを躊躇していましたよ(笑)」というくらいインパクトが大きかったよう。
ほか、瀬谷の地場野菜を使ったガーデンバーニャカウダ、厚揚げとニンジンのオニオンソース、ゆで鷄と焼きねぎのピリ辛ソース、ベーコンとほうれん草のフジッリなど、ゴールに集まった人の顔がほころぶ料理が並んだそうです。
大森さん:「Mo:takeさんのケータリングは、社内でパーティを開く際に、お願いする機会がありました。立食パーティであるような大皿料理とフィンガフード、みたいな普通のケータリングを想像していたのですが、実際にお願いすると、随所にちょっとした驚きが散りばめられていました。とくに女性が喜んでいたのを見て、これは素晴らしいなと。もちろん、味もおいしかったので、瀬谷区のイベントでもお願いしようということになりました。
「Runtrip via」からのオーダーは、瀬谷の地場野菜を使ってほしいということだけ。あとは、参加人数と会場のロケーションなどをお伝えすると、当日は、オープンエアの雰囲気にあった彩り野菜や、「食べられる土」、「Runtrip via」の小さい旗が立っているなど、細かい工夫の数々で、参加者さんの目を楽しませていたそうです。
大森さん:いわゆる“インスタ映え”しますよね。そして、わかりやすくイベントが楽しくなります。料理自体が、コミニケーションの1つのツールになるというのがポイントだなと思います。
ランナーがつながる、料理や体験がつなげる
一つの料理のインパクトや工夫が、そこにいる人をつなげるきっかけになる。食べる、おいしい、おいしいね、のコミュニケーションは、ランナーだからこそ貴重なのかもしれません。
大森さん:ランニングって孤独なスポーツなので、皆さんどこかで仲間を作りたいというのはすごくあると思います。一方で、チームスポーツでないがゆえに誰とつながってもいいわけですよね。チームスポーツだと他のチームの人とつながると、なんかちょっと裏切り感あるじゃないですか。笑
誰と走ってもいいというのが、ランニングの特徴だと思います。チームになってもいいし、離れてもいい。
そんなランナーが集まるところに、食と食を共有する体験があると、ランナーがつながりやすくなります。今後は、ランナーのための「ご褒美メニュー」などもMo:takeとコラボして展開していきたいという大森さん。「ランニングの楽しさ」にとどまらずに、「ランニングのあるライフスタイル」を、より豊かに彩るプロジェクトをまだまだ企んでいくとのこと。
速くても、のんびりでもいい。リアルでも、アプリ上でもいい。仲間と一緒に走ってみると、その道はいつもと違って感じるはず。そして、ゴールで待っているのが「おいしいもの」だったり、「仲間との共有」なら、その道はもっと豊かになるのかもしれない。健康になる、美容にいい、だけじゃない、走りたくなる理由がみつかりそうです。