施主の相談を聞いて建築とつなげる
大学院の建築家を卒業し、国内外の設計事務所を経て、創造系不動産株式会社に転職した佐竹さん。建築の正しい知識をもとに不動産と人をつなぐ不動産コンサルティングの仕事に出会い、手ごたえを感じたと言います。そんな佐竹さんは、学生時代から思い描いていた「独立」をどんなふうに実現したのでしょうか。
佐竹さん:不動産コンサルタントの仕事は、建築家が建物を建てるまでの前段階を整える役割があるのですが、この段階をしっかり整えることが、いい建物を建てるためにとても重要です。施主さんは、どんな土地にどのくらいの予算でどんな建物を建てたいか、希望や不安を抱えながら相談に来られます。そもそもなぜそういった相談をしようと思ったのか、丁寧に聞いていくと、例えば相続のためなど本当に解決したいことを話してくださるんです。
そうした話を聞いていくことの大事さを、僕は前職でも感じていました。ただそれ以外にも、もう少し広い視野で、柔軟な発想を持って建築業界、不動産業界に対して関わってみたいと思い、建築系のイベントをしたり、ラップをやったりしていて。その中で不動産に留まらず、いろんなことに挑戦したいという想いが強くなり独立しました。
「AROUND ARCHITECTURE」という会社名でも表していますが、建築のまわりには、やらなければならない、整理しなければならない要素がたくさんあると思っています。お客さんが建物を建てる際の心のもやもやがなくなるように、相談の内容を深く聞いていきながら建築や不動産を支え、僕たち専門家ができる幅を広げていきたいです。
建築のハードルを下げたい
「そもそも建築家ってあまり知られていませんよね。建築家が建てた家のことも。よく分からない、という人がほとんどなんじゃないかと思うんです」
そう話す佐竹さん。そういえば、時々メディアで「建築家の◯◯さんが建てた家」は見かけるけれど、実際にその家ができるまでに、建築家がどんな仕事をしているのか理解できている人は少ないのかもしれません。
佐竹さん:建築家って、すごく偉い人に見られたり、高価で変わった形の建物ばかり建てているんだろうと思われたり、いろんなイメージを持たれていると思うんです。でも、僕はとても魅力的な建築家さんがたくさんいることを知っています。だから、一人でも多くの人に建築家のことを知ってもらうことも僕の役割だと思っているんです。コーヒースタンドやミニギャラリーは、「知ってもらう」ためのツールの1つでもあります。
興味のきっかけに、と生まれた「建築ラップ」
「話が脱線しますが」と佐竹さんが話し始めたのが、佐竹さんの意外な活動についてでした。
佐竹さん:カタチトナカミというアーティスト名で「建築ラップ」を作って歌っています。建築家の名前をリスペクトを込めて100人以上並べた曲や施工の大事さを歌った曲などを作って、YouTubeで公開しています。昔からHIP HOPが好きで、音楽仲間と活動していた時期もあって、前職の頃にラッパー活動を始めました。
建築や建築家って、一般的にハードルが高いイメージを持たれるんですよね。「建築家の人って、小難しいこと言ってる」と思われることもあって。僕自身、建築学科の学生の時に「建築って難しい」と思っていた一人で、設計もあまり得意じゃなかったですね。得意じゃない分、もっとわかりやすくなればいいのにと思っていました。「建築ラップ」は、建築のハードルを低くしたくて、もう少しかみ砕いて伝えることができたらと思って始めたんです。僕の曲がたまたま誰かの耳に入って、「面白いかも」と興味を持ってもらえたらいいですね。そうなれば僕の中では成功です。
建築物の一つひとつにストーリーがあります。僕は土地探しから建物の完成まで施主さんに並走していますが、1軒につき2年ほどかかることもあります。その間にいろんなことが起きて、家族も変化しています。紆余曲折を経ながら家が建ち上がっていく。それはエンターテイメントだと思うんですよね。いつかその一連の流れを映像化したいんです。建築家や施主さんが悩んだり、喜んだりする姿もありのままに映し出して、建築業界で活躍する人たちのことを多くの人に知ってもらいたいです。面白いと思いませんか?
週2日限定のコーヒースタンドで地域とゆるくつながる
「建築のまわりで、建築をシコウする」。これは、佐竹さんが不動産コンサルタントとして、橋渡し役という意味の「メディエイター」として、建築と人をつなぐ「AROUND ARCHITECTURE」のビジョンです。では、「シコウする」とはどんな意味なのでしょうか。
佐竹さん:「シコウする」には、3つの漢字が入ります。建築の業界を支え、もっと多くの人に広げるという「大きな志に向かって(志向)」、「考え続け(思考)」、「試し続ける(試行)」という思いを込めています。チャレンジすること自体が自分の仕事だと定義しています。だから、志が間違っていなければあえていろいろなことをしたいと思っています。
今年5月にオープンしたコーヒースタンド「AROUND ARCHITECTURE COFFEE」もその一つです。ただ、佐竹さんの肩に力は入っていないようです。
佐竹さん:ここは普段は僕たちの仕事場で、日曜と月曜だけコーヒースタンドになります。コーヒーは、会社のスタッフや手伝いに来てくれるメンバーがお客さんに提供してくれて、僕は基本的にお客さんを迎えておしゃべりを楽しむ役です。
「お客さんにぜひ建築業界のことを知ってもらいたい!」という強い思いではないんです。まずは、ただ来てくれて、コーヒーを飲んでくれて、話ができたらいいなと思っています。でも、僕の家自体に興味を持ってきてくれる人も多くて、コーヒーを飲みながら話をしているうちに「ここってどういう場所なんですか?」なんていうところからこの家の話になって、そこから自然とお客さんの家や不動産の話にもつながることも多いんです。そんな風にゆるくつながれるのが楽しいですね。
建築と人をつなぐ佐竹さんの極小自宅兼オフィスは、コーヒースタンドが加わったことで、建築や不動産関係の人だけでなく、まちの人も訪れる場所になりました。7/7(木)公開予定の次回では、新しい風景が生まれたこの場所のはじまりについて、Yuinchuの小野と語り合います。(つづく)
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