2022.01.25. | 

[Vol.2]宿泊事業という異分野にチャレンジ。「世界で一番おもしろいホテルをつくる」 フードプロデューサー 小川弘純さん

小川弘純さんは、アパレル企業で10年間の経験を積んだのち、フードプロデューサーとして、さまざまなプロジェクトを手掛けてきました。そんななか、ホテルのプロデュースというこれまでに経験のない分野の依頼が舞い込み、小川さんは個人事業主から会社員になって、このプロジェクトの責任者を務めることを決めます。その思い切った決断に至った理由は何だったのでしょうか。

「今後こんな依頼が来ることはないだろう」
個人事業主から会社員になり、プロジェクトの責任者に

2020年、渋谷の宮下公園がリニューアルし、公園・商業施設・ホテルが一体となった新たなランドマーク「MIYASHITA PARK」が誕生。小川さんは、ホテル「sequence MIYASHITA PARK(シークエンス ミヤシタ パーク)」の立ち上げにゼロから携わりました。

 

小川さん:渋谷区立宮下公園の再開発は、渋谷区と三井不動産による官民連携事業で、そのなかのホテルのプロデュースを株式会社ウェルカムが受託しました。

 

ウェルカムは、「DEAN&DELUCA」「TODAY’S SPECIAL」をはじめ、食とデザインを軸に、人々の暮らしを豊かにする事業を展開している会社です。ホテルのプロデュース実績はありませんでしたが、運営するどのブランドも感性を生かした提案がお客さまから高い満足度を得ていることが評価され、起用に至ったようです。

ウェルカムから僕にオファーがあったのは、2017年12月。ひと月前に恵比寿の飲食店のオーナーになり、「どう盛り上げていこうか」と考えていた矢先のことでした。

 

小川さん:ウェルカムとは以前に別の仕事で関わったことがあり、僕の手掛けてきた案件についてもよく知っていたため、声が掛かりました。ただ、プロジェクトに責任者として入るにはウェルカムの社員になることが条件。恵比寿の飲食店のオーナーになったばかりだったので迷いましたが、「この先、これほど壮大でおもしろい仕事を依頼されることはないだろう」と思い、引き受けることにしました。

 

新しい滞在体験を提案
理想は宿泊“も”できる場所

「sequence MIYASHITA PARK」のコンセプトは、「PARK MIND」。ゲストが忙しい時間から解放され、寛容な気持ちなれる心地よい空間を目指したといいます。

 

小川さん:「世界で一番おもしろいホテルをつくろう」というところからプロジェクトはスタートしました。ホテルのイメージは人それぞれで、利用目的もリフレッシュのためだったり、仕事のためだったりとさまざま。だったらイメージや利用目的を絞る必要はないのではないかと思い、宿泊“も”できる場所をつくることにしました。数年後に「sequenceってコーヒーがおいしいところだよね」と話す人がいてもおもしろいですよね。

「sequence」の一番の特徴は、17時チェックイン、翌14時チェックアウトであることです。10時、11時のチェックアウトだと、朝バタバタで、ランチに行くにも荷物を持って行かなければなりません。でも、14時チェックアウトだったら、ゆっくり起きて、部屋に荷物を置いたままランチに行って、その後、カフェで打ち合わせをしたとしてもまだ時間はあります。後者の過ごし方を好む人のほうが多いのではないかと考え、チェックアウト時間を遅らせることにしました。裏テーマは、「あなたの午前中を解放する」です。

 

従来の概念にとらわれず
ゲスト目線で細部にまでこだわる

小川さん:ゲストの目に見えるところ、手に触れるところも細部までこだわりました。予約サイトのデザインから、スクロールのスムーズさ、チェックインカウンターの在り方、エレベーターのボタン、ドアを開けるときの感触、ベッドのふかふか具合、光の入り方など…。

もちろん、スムーズにいったことばかりではありません。例えば、「チャイムは本当に必要なのか」。そんな従来のホテルの“当たり前”を考え直すことから始め、少しずつ理想をかたちにしていきました。このときに、完成形を想像させながら誰もが納得するクオリティと結果を提供するのが、プロデューサーの仕事なのかなと、あらためて思いましたね。

現在、小川さんは「食」以外にも幅広い分野のプロデュースを手掛けていますが、お仕事を選ぶ際に基準はあるのでしょうか。

小川さん:基準はずっと「食」ですね。「食」ではない初めての仕事は、某有名コスメブランド。もともとカフェのプロデュースをやっていて、コスメに参入する際に立ち上げのプロモーションのプロデュースを任せていただきました。

「食」とコスメは一見かけ離れた存在のように思えますが、そのコスメブランドの製品の原料は食べられる素材なんです。最終的に食用として提供されるものではなくても、「食」につながるものであれば関わっていきたいと思っています。

 

次回は1/27(木)に公開予定です。地元・箱根への想いや老舗企業「鈴廣かまぼこ」とともに取り組んでいることなどについてお聞きしました。(つづく)

 

– Information –

小川酒店
Facebook:https://www.facebook.com/ogawasaketen.jp/
鈴廣かまぼこ
HP:https://www.kamaboko.com/

ライター / 上條 真由美

長野県安曇野市出身。ファッション誌・テレビ情報誌の編集者、求人広告のライターを経て、フリーランスとして独立。インタビューしたり、執筆したり、平日の昼間にゴロゴロしたりしている。肉食・ビール党・猫背。カフェと落語が好き。

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