SERIES
Food Future Session
2022.03.08. | 

[Vol.2]「家では和食しか作らない」界外さんが提案した、料理をしない新企画【界外亜由美×Mo:take】

「Food Future Session」という壮大なタイトルで展開する、×Mo:take の座談会。
今回は、Mo:takeとの関わりが長く、Mo:take MAGAZINEの食コラムでもおなじみの界外亜由美(かいげ・あゆみ)さんとの対談です。

界外さんがインタビュアーになってMo:takeの小野正視と坂本英文にインタビューしたのは2020年5月。初めての緊急事態宣言が出され、飲食店の営業自粛や営業時間の短縮など、新型コロナウイルスの影響が広がった時でした。

あれから2年。「コロナを経て食の価値や存在意義がどう変化したか」をメインテーマに、忙しく働きながら家族のために日々の食事を作っている界外さんの“ルール”についてお聞きしながら、Mo:take MAGAZINEの新連載「#盛れたから見て」の狙いについても語っていただきました。

モノ、コトの裏にあるバックストーリーを
Mo:take MAGAZINE で伝えたい

小野前回は、コロナ禍の2年間でMo:take LABO が本当のラボになったという話をしてきましたが、Mo:take MAGAZINEの再定義・リニューアルもありましたね。

 

界外さん:先日、私の友人でMo:take MAGAZINEを見てくれている人が「サイト、リニューアルしてキレイになってたね!」と連絡をくれました。どんな風に再定義していったのか、改めて詳しくお聞きしたいです。

 

小野:コロナ前はケータリング事業のプライオリティが高くて、派生するようにラボがあり、そこでプロデュース的なことをしていました。Mo:take MAGAZINEは、ラボから生まれたコンテンツを受け止める受け皿だったんです。

コロナ禍になり、ラボをメインに持ってきて、ケータリングの優先順位を下げました。ケータリングをやめなかったのは、「体験が一番豊かになる瞬間は人が集まっている時だ」という僕たちのアイデンティティは社会が変わっても変わらないと思っているからです。

その食体験の前後にある「なぜやろうと思ったのか」「やった後の想いは?」というバックストーリーを伝えるのがMo:take MAGAZINEです。特にこれからは、食事自体よりも、食体験を作るとか、どういう人がコトを起こしているか、というところが注目される時代になるでしょう、Mo:take MAGAZINEも、「ヒト・コト・モノ」という優先順位でやっていくんだろうな、という認識を強くしています。

ラボはケータリングより小さな事業です。仮に事業モデルとしてマネタイズしきれていなくても、Mo:take MAGAZINEという僕たちのアイデンティティを滋養として吸わせることで、結果的に事業として成長していくのかな、と考えています。

 

界外さん:インタビューをさせていただくたびに、毎回モノとして作っているものは変わっていますが、想いや戦略は面白いほど変わってないですよね。

 

小野:そうですね。対象物だけが変わっているだけで。

 

“玄米離婚”さえ起きる、
家庭における料理の難しさ

界外さん:栄養を摂るとか、空腹を満たすとか、食にはいろいろな目的がある中で、お二人が事業としてやっているのは、食をエンタメやコンテンツとして楽しむ、ということだと思うんです。ですからその戦略はすごく納得できます。

事業ではなく、家庭内の食について考えると、エンタメとかコンテンツ的な部分はもちろんあるけれど、健やかに生き続けるためのベースを作るところに一番のプライオリティがあると思っています。

 

小野:おっしゃる通りです。

 

界外さん:でも、「栄養バランスの良い完璧な食事だけれど、手間やコストがかかりすぎて日々の生活が成り立たない」だとダメなんですよ。家庭の食を預かる人が責任を感じて頑張りすぎてしまったり、こだわりすぎたりすると、家族の仲違いの原因となります。ちなみに、「玄米離婚」って知ってます?

 

小野:面白い! 「俺は白米の方がいいんだけど」ということですよね。

 

界外さん:そうそう。一方は健康のために玄米を勧めるけれど、他方は玄米は健康にいいかもしれないけど自分は白米が食べたい、と。こうやって聞くと、些細なことだと思うんですが、家庭内において食での揉めごとって、積もりつもって大きくなることがあると思うんです。特にコロナ禍、家で食事を摂ることが増えたので、家庭の食と向き合った人は少なくなかったのではないでしょうか。

 

坂本:家の中での食って、一人暮らしの人も含めて、自分や相手に対しての、愛情表現と意思表示だと思うんです。「この人のためにこうしたい」「喜んでもらいたい」とか、そして「こういうの食べたい」とか。

 

界外さん:ところが、それが毎食になると、本来の目的や意図を見失っちゃうことがあるんですよね。家の中の食の興味深いところのひとつだと思ってます。あと、自分で自分を愛するのってめちゃくちゃ難しくないですか。私は一人暮らしだったら、多分、自分のためだけに毎日ごはんを作れないです。

 

小野:料理は相手がいて初めて成り立つ行為なのかもしれないですね。

 

界外さん:最初は家族を健康にしたいとか、美味しいと思ってもらいたくて始めたのに、だんだん方向が違ってきて、愛情なんだけどこじれていくようなことが起きるんですよね。

 

「家の中では和食以外作らない」
と、料理上手な界外さんが決めた理由

界外さん:私は料理好きだと思われがちなんですが、作りたい日もあればそうでない日もあります。好きなことでも、波があるんですよ。料理を始めたばかりの頃は新しいことばかりで楽しいし、自分の成長も感じられる。でもそれが薄れてきて、義務感や負担感を感じてしまう時には、「何のために作っているのか」という、「料理が好き」を超えた目的にたどりつかないと苦しいんですよ。

私の中で料理における一番の転機は、「家の中では和食以外は作らない」と決めたことです。日本人って、家庭の中で多国籍なものを作りすぎなんだと思うんですよね。いろんなものを作るということは、それだけ材料の種類が増えるし、スキルや知識も必要になります。もちろん、楽しみとしていろんなものを作るのはいいんですけど、疲れている時も負担なく毎日続けるためには、そんなにいろいろなものを作らなくてもいいはずなんです。栄養面からも、和食と決めておくと、あまり難しく考えなくてもバランスが取れるので楽ですしね。

 

小野:それは面白いですね。

 

界外さん:目新しい調味料が増えていくのが楽しい時もあったんですけど、あまり使わないものにキッチンスペースが取られていくと、だんだん気が重くなるんですよね。それまで、料理において、できることを増やすことばかり考えてきた中で、「結局、何のために料理を作るんだっけ?」と改めて考えた時、「自分と家族が健康に楽しく生きていくためだ」と気づいたんです。私は料理人ではないので、常に新しい料理を作ったり、食べる人を驚かせるようなことは、そんなに重要でないのかも、と。その時、和食以外は外食で食べようと決めました。

もちろん、これは私の意見であって、みんなそれぞれの正解があっていいと思うんです。でも、現代人はみんな忙しい。だから、一つのメニューで栄養が摂れればいいじゃん、という「一汁一菜」の考え方や、スープのレシピが人気になっていますよね。忙しくて料理にそんなに手も時間も割けない時に、「何もしない」ではなく、「上手に作って食べる」にするためにはどうしたらいいか、ということをレシピ本を作る編集者や料理研究家さんたちも考えているんですよね、きっと。

 

小野さん:やめないって大事ですよね。

 

界外さん:外食やテイクアウトなど、いろんな手段がありますが、私は家の中で料理を作るという行為はなくさずに持っていた方がいいと思っています。ちょっと大袈裟ですが、自分の食べるものを自分で決めてつくることは、世の中に対して意見を持ったり、自分の手で生活をつくるという感覚と結構近しいところがあると思っています。与えられたものだけ食べていると、そういう感覚が失われそうですしね。

 

小野:お二人はよく知ってると思いますが、僕は超ポジティブなワーカホリックです。仕事が楽しくてしょうがないので、ある意味ライフスタイルが仕事に寄っていくんですよ。それが最近は、Mo:take MAGAZINEで連載している「#ご飯盛れたから見て」とかインスタグラムで展開しているレシピもそうですが、仕事がライフスタイルに寄ってきたなという感覚があります。

前回(2020年5月)のインタビューではOEMの話をしていました。その頃も今も、ビジネスとして生産していくことを大事にしていますが、加えて今はもっとユーザーを見ている感覚があります。生きているだけで毎日3回、食という「コト」が起き続けているわけなので、「#ご飯盛れたから見て」で喜んでくれて、インスタのレシピで人々の生活が豊かになって、それが僕たちの仕事になっていれば、それでいいかなと思っています。

 

「#盛れたから見て」に凝縮されているのは
ダウンサイジングされたケータリングのスキル

界外さん:Mo:take MAGAZINEの企画制作をずっとお手伝いしている中で、お惣菜を盛るだけという「#ご飯盛れたから見て」シリーズは戦略的にご提案したものなんです。ケータリングの、視覚として、体験として楽しい部分を、記事にして伝えてもらいたかったんです。

「盛ること」に最大限クローズアップするため、最初、「調理は一切しないでください。なんなら包丁も使わないで、美しく、楽しく盛り付けてください」と厳しい条件を設けたら、坂本さんが「さすがに包丁は使わせてください」って(笑)

 

坂本:このコンテンツを作っていて感じるのが、ちょっとした楽しみや達成感を提供するところに意味があるのかなと。やってみようかな、という気持ちも大事だし、もっとシンプルに「料理ってそんなに大変なことじゃないよ」というのを一番最初に提唱したかったんですよ。

 

界外さん:私は健康に寄与する食べ物を粛々と作ることを家庭料理の使命にしたんですが、それだけだとやっぱりつまらないんですよ。

 

坂本:食事を提供した人が相手から喜んでもらえたり、すごいねという言葉をもらうことが次につながると思うんです。やって良かったなという気持ちってすごく豊かな気持ちだし、そういう機会を提供していきたいなと思っています。

 

界外さん:この企画の意図を、坂本さんはめちゃくちゃ上手に実現してくださっています。ケータリングという、ビジネスレベルの食に向き合ってきた中で研ぎ澄まされた「魅せる」、「楽しませる」という要素を、スキルはそのままにして、家庭用にダウンサイジングして教えてくれています。

 

坂本:これもテクニックじゃないですか。ケータリングって、キッチンがないところでいかに提供するか、喜んでもらうためにどういう形に仕上げるか、というところが大事なので、この経験が相当大きかったと僕は思っています。

 

界外さん:制約がある方が実は自由になれるところがありますよね。ケータリングを含め、キッチン設備の整っていない現場をいくつもやっているからこそ、自分の力が一番発揮できるところを感覚的に知っていて、制約があるからこそ突き抜けた工夫ができるのが坂本さんだと思っています。

 

次回は3/10(木)に公開予定です。コロナ禍の2年を経て、ここからMo:takeがどこに向かおうとしているのかをお聞きします。界外さんが坂本さんをどんな風に見ているのか、リアルな“坂本評”も飛び出しますのでお楽しみに。(つづく)

ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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Mo:take MAGAZINEは、食を切り口に “今” を発信しているメディアです。
文脈や背景を知ることで、その時、その場所は、より豊かになるはず。

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みんなとともに考えながら、さまざまな場所へ。
あらゆる食の体験と可能性をきりひらいていきます。

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