箱根駅伝での悔しさが人生の転機を生んだ
小野:大森さんには2018年にMo:take MAGAZINEでもご登場いただきました。あれから4年経つんですね。あの時は、ランナーが自由に走ることを楽しめるイベント「Runtrip via(ラントリップ ビア)」でMo:takeがコラボさせてもらって、ゴール地点に「食べられる土」など料理を並べて参加者のみなさんでシェアしてもらったんですよね。
大森さん:「Runtrip via」は、ゴールと場所だけは決まっていて、参加者は好きな時間、好きなタイミング、好きなペースで、好きなルートを走ってもらって、同じ時間、同じ場所にゴールしようという自由なイベントでした。
ゴール会場には、Mo:takeの創作料理が用意されていて、それがとても色鮮やかで美味しくて、みんなで盛り上がりましたね。ランニング友だちもできるという、「ランニングと食がつながるとこんなに豊かな時間になれるんだ」と感じたイベントでした。
小野:大森さんは自身もランナーとしてランナーのためのサービスを提供しています。改めて、大森さんがラントリップを始めたきっかけや現在について教えてください。
大森さん:はい。僕は2015年に起業しましたが、今から14年前、箱根駅伝に出場した経験があります。その時は苦しくて、辛くて。「もう二度と走りたくない」と誓ってから5年近く走らない生活をしていたんですね。
社会人になって再び走ってみた時、価値観が大きく変わっているのに気づいたんです。それは、結果を自分自身がどう受け取るか。タイムや順位、距離という数字だけがランニングの基準じゃなくて、いかに楽しむことが大事かに気づきました。僕にとって大きな人生の転機でした。
ランナーがもっと自由になれるために
小野:自分の中で主軸が「数字」から「楽しむ」に変わるのは大きな体験ですね。
大森さん:それまで、マラソンなどタイムや順位を競う市場は、速いランナーが高く評価されることが当たり前でした。「楽しく自由に走る」ことの面白さを実感した僕は、速さが優先されがちな価値観を変えたいと思ったんです。準備を整えて、2015年、「もっと楽しく自由に走れる世界へ」をミッションにラントリップを立ち上げました。
小野:ランナーのためのアプリを開発されていますよね?
大森さん:はい。中心事業はSNSアプリ「Runtrip」で、ランナー同士がコミュニケーションできるツールになっています。そのほか、メディア運営、イベントのプラットフォーム、ECなどを事業として行っています。
イベントについてはコロナ禍で大きく業態が変わって、リアルイベントから今はバーチャルランニングを楽しめるオンラインイベントへと移行しています。
小野:コロナ禍でイベントはオンラインにされたんですか?
大森さん:そうですね。リアルなイベントは今はやっていませんが、逆にバーチャルランニングイベントという仕組み自体が世界的にも広がっているんですよ。それが追い風になって、ラントリップでも事業として面白い展開になっています。
自宅の周辺など好きな場所でアプリやデバイスを使って運動した時間やキロ数などを記録してもらって、それをアップロードすると完走証が出たり、特典がもらえたりというサービスです。毎月イベントを開催しているのですが、多い時は3万3000人くらい参加してくれるんですよ。これって東京マラソンや大阪マラソンと同規模なんです。
小野:3万3000人ですか!?すごいですね!
イベント参加者だけがつながれるコミュニティ
大森さん:オンラインの場合、数人の運営スタッフで動かせることもありがたい特徴です。これはリアルイベントでは難しいことなんですよね。3万人規模のイベントを開催しようと思ったら、ボランティアも何百人と必要で、準備にも何十日、何百日とかかります。それが毎月、数人で形にできるのはオンラインイベントならではですね。
小野:オンラインイベントのためのサービスもあるんですか?
大森さん:「Runtrip」をインストールすることでイベントに参加できるのですが、自分の走りを計測・分析したりできるほか、みなさん、イベントでの自分の走りや景色の写真やコメントを投稿するんです。
そうすると、閲覧できるのはランナーだけなので、安全にコミュニケーションが取れて、ランナー仲間や友達になることも多いんです。半年後くらいには、「Runtrip」をSNSだけではなく、メディア、イベントのプラットフォームなど様々な機能を搭載した総合アプリに進化させたいと思っています。これまでスマホ、WEBで別のサービスとして提供していたものをこのアプリに集約させるんです。
今まで、スタートアップ企業として、事業を一つだけにフォーカスするように周りからたくさん言われてきました。でも、すべて振り払って、やせ我慢して(笑)、やっとここまできました。僕の中ではこの総合的なサービスを提供することこそが自分のやりたい事業だったんです。
次回は7/28(木)に公開予定です。走る苦しさも楽しさも両方知り尽くしている大森さんだからこその着眼点はバーチャルの世界でも可能性を広げていきます。ランナーに寄り添ったサービスの面白さを深堀りします。(つづく)