SERIES
食を起点としたコト起こしの舞台裏
2026.08.31. | 

八ヶ岳に新しい風景が生まれる。農の可能性を広げる、ハマラ2026年の夏

皮をめくり、生のままひと口かじる。

シャキッとした食感のあと、粒からあふれ出す果汁。会場のあちこちから「甘い!」「みずみずしい」「こんなとうもろこしは食べたことがない」と、驚きの声が上がりました。

ここは、長野県・原村に広がる八ヶ岳の畑ではありません。渋谷スクランブルスクエア15階にある共創施設、SHIBUYA QWSです。

2026年7月27日、このSHIBUYA QWSで、Yuinchu主催のトークイベント「Yuinchu×ハマラ 〜農の可能性を広げる場づくり〜」が開催されました。今回はそのイベントの様子をお届けします。

Yuinchuがこれまで農園の場づくりに伴走してきたハマラを迎えた渋谷の会場には、現地八ヶ岳の体感型農園「ハマラハウス」で当日の早朝に彼らが切りだした「八ヶ岳生とうもろこし」の株が運び込まれました。八ヶ岳の自然を感じてもらえるように再現した一日限りのとうもろこし畑が現れた会場で、参加者は芝生(人工芝)の上に腰を下ろし、ハマラの歩みや2026年の新たな取り組みに耳を傾けました。

Mo:take MAGAZINEではこれまで、彼らがハマラノーエンを始めた原点や、八ヶ岳生とうもろこしとの出会い、体感型農園「ハマラハウス」の開園、都市でのPOPUPなど、その歩みを追ってきました。

そこで一貫して描いてきたのは、とうもろこしをつくり、届けるだけではなく、そのおいしさや背景を自分たちの言葉で伝え、農園で過ごす時間そのものを体験として育ててきた姿です。さらに、その体験を八ヶ岳から都市へ運ぶことで、農と人が出会う新たな接点もつくってきました。

その歩みの先で、2026年のハマラが目指しているのは、農園をさらに多くの人へひらくことです。農家だけでなく、学生や建築家、企業、自治体、そしてこれまで農になじみのなかった人たちも、それぞれの立場から農に関われる機会を、少しずつ増やそうとしています。

では、この夏、“ハマラノーエン”にはどんな新しい風景が生まれたのでしょうか。

 

とうもろこしから始まる、人と地域のつながり

2011年、幼なじみの柳沢卓矢さんと折井祐介さんが新規就農し、地元・原村で農園を始めました。

はじめは、とにかく美味しいとうもろこしをつくることに向き合う日々でした。そうして育ててきたのが、生のまま食べられるほど皮が薄く、果汁をたっぷりと含んだ「八ヶ岳生とうもろこし」です。そのみずみずしさと甘さは、少しずつ多くの人に知られるようになっていきました。

そのおいしさを支えているのが、八ヶ岳高原ならではの環境です。標高が高く、昼と夜の寒暖差が大きいこの土地で、とうもろこしは夜の間に実へ甘みを蓄えます。日が昇ると、その糖分を成長のために使い始めるため、僕たちは甘みが最も高まる日の出前、午前4時から5時ごろに収穫しています。

けれど、ハマラが届けたいのは、とうもろこしの甘さだけではありません。

「僕たちは、とうもろこしを商品として売るだけではなく、夏の八ヶ岳でしか出会えない体験や思い出として届けたいと考えています」

イベントで柳沢さんが語ったように、生とうもろこしをひと口かじったときの驚きには、その土地の水や土、涼しい朝の空気、畑の先に広がる山々の風景までが重なっています。

だからこそハマラは、とうもろこしを届けるだけでなく、お客さんと直接顔を合わせ、その味の背景にある八ヶ岳の風景や、つくり手の思いまで、自分たちの言葉で伝えることを大切にしてきました。

さらに、言葉だけでは伝えきれない農園の魅力を、その場で過ごす時間を通して感じてもらいたい。そんな思いから生まれたのが「ハマラハウス」です。全長30〜40メートルほどの大きなビニールハウスを活用した空間には、直売所やカフェが設けられています。

ここでは、とうもろこしを買って帰るだけでなく、その場で味わったり、畑を眺めながらコーヒーを飲んだり、写真を撮ったり、ひと息ついたりと、訪れた人が思い思いの時間を楽しんでいます。

こうしたさまざまな過ごし方が生まれるハマラハウスを、柳沢さんは「毎年の実験の場」と表現します。

 

目指しているのは、ただレジを通って帰るだけの直売所ではなく、家族と畑を歩き、もぎたてのとうもろこしを味わい、八ヶ岳の風景の中でゆっくりと時間を過ごせる場所。そうした体験が重なることで、農園での記憶は「とうもろこしを買った場所」から、「夏に家族で訪れた場所」へと変わっていきます。

さらに、農園をきっかけに周辺のお店を訪れ、地域の人と出会い、また次の季節にも足を運ぶ。ハマラハウスは、八ヶ岳や原村との新しいつながりが生まれる場にもなっています。

こうしたハマラハウスでの実践の根底にある考えが、この日のスライドに大きく記されていました。

「農は、人と地域をひらく『入口』になる」

野菜をつくる。そこに人が訪れ、出会いや関係が生まれ、やがて新しい企画が動き出す。ハマラノーエンは、農を作物の生産だけにとどめず、人と地域がつながるきっかけとして捉えています。

株式会社ベジパングから株式会社ハマラへの社名変更も、柳沢さんが語る「野菜を売る会社」から「農を軸に人と地域をつなぐ会社」へという、視点の変化を表すものでした。

その考えは、農園という場所の中だけにとどまりません。ハマラノーエンでは、とうもろこしを起点に、カフェやアパレル、地域の商品を紹介する「HAMARA CHOICE」など、農と日常をつなぐ取り組みも広げてきました。

食卓やコーヒー、服、旅、贈り物といった日常のさまざまな場面から、農を身近に感じてもらうこと。

その先に、これまで農との接点がなかった人との新しい出会いが生まれています。

 

「建築をつくる」のではなく、「風景をつくる」

こうして農との接点を増やすなかで、ハマラには、これまで農業とは縁のなかった人たちも集まり始めています。異なる視点や専門性が農園に持ち込まれることで、新しい取り組みも生まれてきました。そのひとつが、2026年の「八ヶ岳丸太プロジェクト2026夏」です。

八ヶ岳西麓を拠点とする建築事務所MSDと、日本大学生産工学部・岩田研究室の学生たちが加わり、ハマラハウスを舞台に、農園で過ごす時間や、そこで出会う風景をともにデザインしました。

その考えを象徴するのが、「建築をつくる、ではなく風景をつくる」という言葉です。
完成したのは、「丸太ゲート」「見上げ櫓」「見晴らし櫓」という3つの作品です。いずれも、畑の中で人の視線や動きを変え、これまでとは異なる風景に出会うための仕掛けとしてつくられました。

この畑の入口に立つ丸太ゲートゲートをくぐってとうもろこしの間を進むと、その先に八ヶ岳の山並みが広がるように配置されています。

さらに畑の中に設けられた見上げ櫓では、普段とは少し違う高さから、農園を眺めることができます。あえて低く抑えられた櫓に上がると、視線が成長したとうもろこしの穂先と近い位置まで上がります。そこから農園を見渡したり、寝転んで葉に囲まれながら八ヶ岳の大きな空を見上げたりと、畑の中で新しい景色に出会うことができます。

見晴らし櫓からは、とうもろこし畑と、その向こうに連なる山々を一望できます。立つ位置や視線の高さが少し変わるだけで、いつもの畑にも、これまで気づかなかった風景が現れます。

 

学生たちの作品は、人が畑の中をどのように歩き、どこで足を止め、何に心を動かされるのか、農園で過ごす時間を考慮して生まれたものです。例えば、収穫体験の畑では、管理や作業のしやすさから、通路をまっすぐにつくるのが一般的です。しかし今回は、道をあえて曲線にし、その先がすぐには見えないようにしました。

「曲がった先には、何があるのだろう」

そんな小さな期待が、畑を歩く時間をちょっとした冒険へと変えていきます。さらに、収穫を終えた畑を円形に耕し、枯山水のような風景をつくるという、農家だけではなかなか思いつかないアイデアも生まれました。

折井さんによると、農家が畑を見ると、どうしても作業効率や管理のしやすさを優先して考えてしまうといいます。一方、建築を学ぶ学生たちが目を向けたのは、「どこから見れば景色が美しく映るか」「訪れた人がどこで足を止め、どんな気持ちになるか」ということでした。農家とは異なる視点が加わったことで、ハマラハウスには、これまでになかった過ごし方や、畑の新しい見え方が生まれています。

その変化は、すでに来園者の姿にも表れ始めています。トップシーズンのハマラハウスには多くの人が訪れ、混雑時には整理券を受け取って待つこともあります。そんなとき、来園者は丸太の作品が並ぶ畑へ足を運び、櫓に上ったり、写真を撮ったりしながら思い思いに時間を過ごすようになりました。

これまでなら退屈に感じられたかもしれない待ち時間が、畑を歩き、八ヶ岳の景色を楽しむ体験へと変わり始めています。

そして、このプロジェクトがもたらしたものは、来園者の新しい過ごし方だけではありません。学生たちにとっても、農園は実践的な学びの場になりました。現地を歩き、地域の人と話し、チェーンソーで丸太を切り、自分たちの手で組み上げる。そこには、机に向かって図面を描くだけでは得られない経験があります。

農園は学生たちの視点を受け取り、学生たちもまた、農園での実践から学んでいく。

どちらか一方が何かを提供し、もう一方が受け取るだけの関係ではありません。異なる専門性を持つ人たちが同じ場所に入り、共に考え、手を動かす。その過程で、農園にも、関わった人にも、それまで気づかなかった新しい価値が見えてきます。

その双方向の関係こそが、八ヶ岳丸太プロジェクトから生まれた「共創」の形です。

 

農業に残る、手触りのある時間

こうした学生たちとの取り組みを通して見えてくるのは、農業が作物を生産するだけの仕事ではないということ。

AIや機械化が進み、農業の現場でも作業の自動化や効率化が進んでいます。それは農家の負担を減らし、農業を続けていくうえで欠かせない変化ですが、その一方で、土に触れ、畑を耕し、作物の育ちを見守り、自分の手で収穫する。そうした手触りのある時間には、効率や利益だけでは測ることのできない価値があります。

「人が生きていく上で、充実した時間を過ごすための大事な体験が、農業の中にはまだ残っていると思います」

そう話す折井さんの言葉には、収穫体験や場づくりを続けている理由が表れています。

農業に残る手触りのある時間を、つくり手だけのものにせず、さまざまな人と分かち合っていく。そのための接点を、ハマラはこれまでも少しずつ作ってきました。

また農に関わることは、必ずしも農家になることだけを意味しません。食べる人、訪れる人、伝える人、設計する人、商品をつくる人、地域と人をつなぐ人。建築を学ぶ学生たちが畑の風景を変えたように、異なる仕事や関心を持つ人が加わることで、農にはこれまで見えていなかった可能性が生まれていきます。

その関わり方は、ひとつではなく、畑を企業研修や福利厚生の場として活用したり、農業、観光、林業、教育を横断する企画を考えたり、地域の素材を生かした商品や食の体験をつくることも、学生や研究者が地域課題を実践的に学ぶことも、農との新しい接点になり得ます。

これまで積み重ねてきた取り組みに、誰かの知識や技術、編集力、デザイン、ネットワークが重なることで、農家だけでは思い描けなかった取り組みが、少しずつ形になっていきます。

なぜ、QWSに一日限りの畑をつくったのか

こうした農の可能性を、八ヶ岳の中だけにとどめず、さらに多くの人へ届けていく。その新たな接点としてYuinchuが企画した、今回のトークイベント。

これまで人や地域との接点を、食を起点とした場づくりでつくってきた「Mo:take」と、イベントの企画・運営を手がける「onestop」が連動し、これまでもハマラと一緒に新しい場づくりに伴走してきました。今回は改めて農の可能性を広げるために前進し続けるハマラの魅力や思いを、言葉だけでなく体験として届ける一日として形にしました。

会場に選んだのは、企業や自治体、大学、スタートアップ、クリエイターなど、多様な人がそれぞれの問いを持ち寄り、新たな社会価値の創出を目指す共創施設「SHIBUYA QWS」です。

農業の可能性を、すでに農と関わっている人たちの間だけで語るのではなく、異なる視点や専門性を持つ人たちとも共有していく。YuinchuがQWSを会場に選んだのは、そうした新たな出会いのキッカケをつくるためでした。

しかし、ハマラの活動や思いを言葉だけで説明しても、農の魅力を自分ごととして感じてもらうのは難しい。そこで、本物のとうもろこしを会場へ運び込み、一日限りの畑をつくりました。

この一日でハマラノーエンのすべてを理解してもらうことではありませんが、体験を重ねるごとに参加者と農との距離が少しずつ近くなり、興味を持つキッカケが生まれたり、そこから八ヶ岳や原村についてもっと知ろうとしたり、実際に農園を訪れたり、自分の仕事と農との接点を考えたりする。そんな次の一歩が生まれる場を目指しました。

これまでもYuinchuは、都市でのPOPUPを通して、八ヶ岳で感じた驚きや空気感を体験として届けてきました。その積み重ねを生かした今回のイベントでは、とうもろこしの「おいしさ」だけでなく、その背景にあるハマラノーエンの考えや、農の可能性を広げていく共創のあり方までを、参加者と共有しました。

自分で収穫した一本が、農への入口になる

イベントの終盤、参加者はいよいよ会場に設けられた畑へと入っていきます。

収穫方法を説明するのは、ハマラノーエンの農園長・折井さんです。とうもろこしは、一番上に実る「一番果」が最初に大きく育ちます。今回は、その一番果を選び、実がお辞儀している方向へ素直に折り下げるのが収穫のポイントです。強く引っ張る必要はありません。

説明を聞いた参加者たちは、背の高い葉をかき分けながら、自分が収穫する一本を探します。実を見つけ、両手を添えて下へ折る。パキッという小さな感触とともに、とうもろこしが株から外れました。

収穫した一本を掲げて笑う人。手にした実をじっくりと眺める人。隣の参加者と収穫の仕方を教え合う人。会場には、トークに耳を傾けていた時間とはまた違う、にぎやかな空気が広がっていました。

渋谷に現れた一日限りの畑は、参加者と八ヶ岳をつなぎ、農への関心を育てる入口へと変わっていきました。

最盛期を迎え、いよいよシーズンも終盤に差し掛かった八ヶ岳の畑には、学生たちがつくった丸太の作品が建っています。

今年の夏は、ゲートをくぐった先に山並みが広がり、とうもろこしの葉に囲まれて空を見上げ、櫓の上からは夏の八ヶ岳を眺めることができました。そこには、これまでの農園にはなかった新しい風景が生まれています。

ハマラが農業の完成形を持っているわけではありませんが、毎年新しいことを試し、失敗すればまた考え、少しずつ形を変えていく。その積み重ねの中で、農に関わる人が増え、それぞれの立場から参加できる機会も少しずつ生まれてきました。

とうもろこしをつくる人だけでなく、食べる人、訪れる人、伝える人、設計する人、そして応援する人。そうした人たちが加わるほど、農の景色はこれからも変わっていきます。

農家と学生、地域と都市、食べる人とつくる人が出会い、ともに手を動かしたからこそ生まれた、新しい夏の風景。

来年はどんな景色や体験が生まれるのか、今から楽しみです。

 

ライター / Mo:take MAGAZINE 編集部

モッテイクマガジンでは、イベントのレポートや新しい食のたのしみ方のアイデアを発信します。そして、生産者、料理人、生活者の想いをていねいにつないでいきます。 みんなとともに考えながら、さまざまな場所へ。あらゆる食の体験と可能性をきりひらいていきます。

Mo:take MAGAZINE > 食を起点としたコト起こしの舞台裏 > 八ヶ岳に新しい風景が生まれる。農の可能性を広げる、ハマラ2026年の夏

Mo:take MAGAZINEは、食を切り口に “今” を発信しているメディアです。
文脈や背景を知ることで、その時、その場所は、より豊かになるはず。

Mo:take MAGAZINEは、
食を切り口に “今” を
発信しているメディアです。
文脈や背景を知ることで、
その時、その場所は、
より豊かになるはず。

みんなとともに考えながら、さまざまな場所へ。
あらゆる食の体験と可能性をきりひらいていきます。

みんなとともに考えながら、
さまざまな場所へ。
あらゆる食の体験と可能性を
きりひらいていきます。

さあ、いっしょに たべよう

OTHER SERVICE

様々な形で「食」が生む新たな価値を提供します。

ブランドサイトへ