ほしいと思えるエプロンがないなら、自分で作ればいい
後藤さんは40代に入るまでの22年間、代官山のセレクトショップに勤務し、古着の買い付けも担当していました。ブーツを買ったり、革ジャンを買ったり、給料の大半を大好きな洋服に注ぎ込んだ20代。それがいつしか、美味しい物を求めて食にお金をかけるようになっていったそうです。
後藤さん:20年でやり切ったとは思ってないですが、衣食住という言葉もあるので、次の人生は食の道に進んでもいいかなと思ったんです。
2015年に退職後、すぐにフードコーティネーターの資格を取るために専門学校に入学。学校では調理実習があったので、その時には必ずエプロンを持っていく必要がありました。そのことが、後藤さんの人生の展開を変えることになるのです。
後藤さん:それまで使うことはなかったんですが、古着の買い付けで海外に行った時に買い貯めた古着やお土産物のエプロンをたくさん持っていました。なので毎回毎回、取っ替え引っ替えつけていったんです。そしたら学長や先生、同級生が毎回、「今日のもいいね!」「かわいい!」って褒めてくれたんですよ。
女性も多いので気分良くなってですね(笑)、もっとエプロンを買い足そうと思っていろんなお店を回ったんですが、お金を払ってまでほしいと思えるものがなかったんです。その時にピンと来たんですね。ないのなら、自分で作ればいい!と。
どこにもないエプロンを追求して
当時、エプロンを作っているフードコーディネーターが誰もいなかったこともあり、後藤さんはエプロンブランドを立ち上げる事を決めました。デザインには、徹底的にこだわったと言います。
後藤さん:最初に決めていたのは、男女兼用で作れること。そして、男性がYシャツやネクタイ、蝶ネクタイをつけた状態でも絵になるシルエットを追求しました。どこにもない物を作りたかったので、あらゆるエプロンを確認しながら、3カ月ほど試行錯誤しましたね。フリペーパーを張り合わせて大きな用紙を作り、実寸で裁断してやっていました。
作ってもらう工場にもこだわりました。アパレルからは足を洗ったからということで、アパレルとは無関係の工場を探している中で、下町にある明治創業の老舗の工場をたまたまネットで見つけたそうです。
後藤さん:手ぬぐいとかお祭りの法被とか、日本の古き良き和の物を作っていたんですね。そこにもう惚れまして。職人さんが1点1点作っているんですが、B級品が極めて少ないんですよ。職人の皆さんの誇りと気概がすごく伝わってくるので、これからもずっと、変えないでしょうね。
テレビの取材は「照れ臭い」と断るような、江戸っ子気質。メディアには一切興味がない職人さんたちですが、 “逃げ恥”の時にはお孫さんたちも興奮して大騒ぎになったそうです。「その時、これで少しは恩返しできたかな、と思えましたね」と語る後藤さん。その言葉には、職人さんたちへの敬意と感謝の気持ちがにじみ出ていました。
メッセージを、コミュニケーションの糸口に
それにしてもなぜ、英語のメッセージをデザインにしたのでしょうか。
後藤さん:お店の人のエプロンが無地なのが、すごくもったいなく感じたんです。例えば店員さんが季節ごとに違うメッセージのエプロンをつけることでお客さんとのコミュニケーションが生まれたり、オリンピックでいろんな国の人が来た時に、「Welcome to JAPAN」というメッセージを目にしたことで会話が生まれたりとか、そういうきっかけになったらいいなと思ったんです。
僕は年に2回、アメリカを一人旅しながら、昔ながらのダイナーから最新のレストランまで、片っ端から回ります。メニューに書いてある英語のフレーズとかを店内のポップを見ているうちに、いろんな言い回しがどんどん浮かんでくるんです。
一貫しているのは、ポジティブなメッセージであること。今では300バリエーションにもなったといいます。
そして、メッセージがパッと目に飛び込んでくるのは、フォントにも理由があります。「目にした時に2、3秒で読み切れるようなわかりやすい字体にしたい」と考え抜いて生まれたのがこのフォント。デザイン会社に依頼して作ってもらった、オリジナルフォントなのです。
次回は3/19(火)に公開予定です。
後藤さんの頭の中には、エプロンはもちろんのこと、エプロンの枠を超えた様々な構想が広がっています。それをちょっとだけ、のぞかせていただきます。
(つづく)
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