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美味しい科学 CAST × Mo:take
2025.01.14. | 

『美味しい科学』 〜 切る編 〜 美味しい料理のカギは、切り方にある?

東大CASTとMo:takeがお届けする食を科学の視点で紐解く連載企画「美味しい科学」。第2回のテーマはお料理に欠かせない作業工程「切る」です!どんなお料理をするにもまず「切ることから始まる」といっても過言ではないくらい、料理には欠かせない行為ですよね。でもこの「切る」という行為、ただの準備作業だと思っていませんか?

実はお料理は食材の切り方ひとつで、仕上がりにも大きく影響する重要なステップなんです!どう切るのかで、食材によっては甘くも、苦くもしてしまう。
いつも何気なくやっている「切る」という行為が、料理を変化させるカギになっているとしたら?今回はそんな「切る」に隠された不思議をCASTと一緒に紐解いていきます!

「切り方」で美味しさって変わるの?教えてCASTさーん!

−−包丁を握って、「切る」という時には私は無意識レベルで、食べる人や自分の好みに合わせて、小さく切ろうとか、薄く切ろうとか、そういった感じでお料理を進めるのですが、この「切る」という行為については奥が深そうですね!

CASTさん:そうなんです、お料理をする時、包丁をにぎって「これは、もっと食べやすくするために小さく切ろう!」と思ったり、お料理に慣れている人は仕上がりをイメージして切る形を考えたり、レシピ本やお料理動画を参考にして、そのまま「切る」ということは、みなさんがやっていることだと思います。食材を切る時には少なからず、何かしらの“目的“や“意味”をもっているものだと思いますが、実はそれが科学的に見ても意味のある切り方で、お料理の美味しさや楽しみ方にも影響したりするんですよ。

 

−−やっぱり!レシピ本などで「**切りに」など料理によって指定されていたりもしますが、先人たちはそれを知ってか、知らずか、必然的にその切り方をしてきたわけですね!

CASTさん:そうかもしれませんね!切り方によって食材の甘さを引き立てたり、逆に苦味を出してしまったり、煮込み料理で味が染み込みやすくなったり、炒め物で食感を楽しんでもらったり。ちょっとしたルールというか、ポイントをおさえてもらうだけで、料理の腕前もアップできちゃうかもしれませんよ!

それではここから、切ると何が起こるのか、それを踏まえてどう切ると“美味しい”に繋がるのか、そのあたりのポイントも簡単に説明していきますね!

 

食材には「繊維」がある。

CASTさん:まず食材には「繊維」というものがあるんです。この繊維を切ることで色んな結果に影響するんですよ。それではまず、繊維が何かを簡単に説明しますね。

簡単に言うと、繊維は栄養や水分を運ぶ道というイメージです。野菜やお肉・お魚などの食材には、小さな筋のようなものがたくさんありますよね。これを繊維というのですが、この繊維は植物や動物の体を支えたり、形を保つためにある重要な存在で、小さな細胞が連なってできているんです。

繊維の向きは、栄養や水分を送る流れによって変わります。たとえば、野菜の茎や葉っぱは、植物が水や栄養を効率よく運ぶために、上下方向に繊維が並んでいます。身近な野菜で言うと、にんじんや玉ねぎ、セロリなどは上下方向ですし、葉物も根っこから葉っぱに先に向かって繊維が縦に伸びていますね。食材を切る時に、この繊維が切れて、中の細胞が壊れることから、切ることで色んな反応が食材に起きるんですよ。

 

−−つまり切ることで、繊維が切れて、その中にある成分がプチュっと出てくる?そんなイメージでしょうか?

 

切ると「繊維」が壊れて、味や食感にも影響する。

CASTさん:そんなイメージですね!少し具体的に表現すると食材を切ると繊維が壊れて、その中にあった香りやうま味などを引き出す成分が外に出てくるんです。なんとなく、イメージできますか??
例えば、玉ねぎを切った時に目が痛くなって涙が出るのは、目が痛くなるような成分が放出されるからなんです。でも、その成分が味やお料理の風味に活かされているんですよ。

 

−−逆を言えば、切らなければ何も起きないわけですよね。切ることで何が起きてるんですか??

CASTさん:こうした現象が起きる理由は、ただ繊維が壊れたからというだけではなく、食材の中で色んな働きをする酵素というものが切られた時に活発に働くからなんです。もう少しわかりやすく説明すると、酵素は「切られるまで、食材の中で眠っている働き者」のような存在です。先ほど、食材を切ると繊維が壊れるとお伝えしましたが、切られた時に食材の中で眠っていた働き者(酵素)が、バッと目を覚まして「香りを出そう!」とか「成分を出そう!」と、働き始めるので、その変化が食材に現れるんです。

見た目で言えば、林檎を切ると色が変わるのは、切られた面の繊維(細胞)が酸素に触れてることで色が変わるんですよ、空気に触れて色が変わっていくことを“酸化する”ともいいますね。

 

−−なるほど!切った瞬間に目覚めて成分や香りを発生させるわけですね!!では、玉ねぎを切って目が痛くなるのも、玉ねぎの酵素が活発になるからというわけか。

CASTさん:そうですね!でも玉ねぎも、切り方によっては目が痛くなりにくかったりするんです。そうした切り方一つで、味にも変化が現れるので お料理をする時には色んな切り方をしたものを食べ比べてみたりすると、意外と実感できると思います。

 

「切る」と火が通りやすく、味も染み込みやすくなる。

CASTさん:食材を切った時には、食材の表面が見えるようになりますよね。この面のことを「表面積(ひょうめんせき)」といいます。例えば、切っていないそのままの玉ねぎと、スライスした玉ねぎでは、スライスした玉ねぎの方が表面がいっぱい出ていますよね!この表面が見える部分が多くなることを「表面積が増える」と言うんです。

恐らくこれは感覚的にも気づいている人は多いと思いますが、野菜を細かく切ることで炒め物の時間を短縮したり、塊のお肉よりも、切ったお肉のほうが早く火が通るイメージはありませんか?これも、切ることによって表面が大きくなることで、加熱の効率が上がって火が通りやすくなっているんです。そして、お肉や野菜を煮込むと、その切った部分を通して、スープや調味料が浸透しやすくなります。ここで、繊維を意識した切り方にポイントがありますので、一緒に見ていきましょう!

 

ポイントは切る方向にあり!
繊維に沿って切る ? 繊維を断つように切る?

さて、ここからは切り方で、料理にどのような影響を与えていくのかをお伝えしていきます。ポイントは繊維に対してどう切っていくのか。繊維に合わせて切るのか、それを断つように切るのかで、食感や味が変わってくるとか。

 

炒め物やサラダで、食感を楽しみたい時は“繊維に沿って”。

繊維に沿って切る場合、つまり繊維が残った状態は、食感を感じるような仕上がりになります。加熱をしても繊維は壊れにくいので、炒め物やサラダなどで食感を楽しみたい時には、こちらがおすすめ。例えば、玉ねぎであれば、上下伸びた繊維に沿って切ることで、シャキシャキした食感が楽しめますよ。ちなみに、“目が痛くなりにくい玉ねぎの切り方”ですが、この繊維に沿った切り方が有効なんです!

先ほど「繊維に沿って切った方が酵素が外に出にくい」とお伝えしたとおり、玉ねぎは繊維に沿って切ることで、目が痛くなる原因の成分が外に出るのを少し抑えられるんです。逆に、沿って切らないと成分が出やすくなってしまうので、目が痛くなりやすいということですね!

 

スープや煮込み料理では、“繊維を断ち切る”
香りや味も引き出せる!

繊維に対して包丁が垂直になるようなイメージで、繊維を断つように切ると、繊維に沿って切ったものに比べて食材が柔らかく、口当たりがなめらかに。例えば、キャベツの千切り。キャベツの葉っぱは、繊維が筋のように細長く縦に並んでいますが、この繊維を断ち切るように切ると、柔らかく、ふわっとした食感の千切りに。逆に、繊維に沿って切ると、ザクザクっとした歯応えを感じる千切りに仕上がります。

また、繊維を断つように切ると、断ち切った繊維から味が入って染み込みやすくなるので、こちらはスープや煮込み料理に向いている切り方なんです。繊維が壊れることで中の成分が出てくると、香りやうま味も出やすくなるので、食材の特徴を活かせるというのもオススメのポイントですね。また煮物など、煮込んだ時に形や食感を残したいものは、大きめにゴロっと切り、スープに溶かすようにするには細かく切るなど仕上がりに合わせて調整するのもいいですね。

ここでは、お野菜を例に紹介してきましたが、お肉やお魚にも当然「繊維」があります。お野菜と同じように、この繊維の向きを意識して切り方を変えると、食感や料理の仕上がりの選択肢が増えるんです。

お肉の場合も繊維を断って切ると繊維に添って切ったものより、柔らかく仕上がります。 ただ、繊維を断ち切っているので、お肉の中の肉汁が表面から出やすくなります。お魚の場合は、柔らかいので基本的には切り方で大きく食感に影響がないものの、お刺身などでは繊維を断つように切ると、食感が滑らかになり、素材の旨みや、魚の風味が引き立つことから繊維を断ち切るのが一般的なようです。お料理に合わせて切り方を考えていくと、美味しさや楽しみ方の幅も広がりそうですね!

 

ピーマンは切り方で、苦味を抑えられる!?

最後にここでもう一つ、みなさんはピーマンってお好きですか?「ピーマンが苦いから嫌い」という子供達の声を聞くこともよくありますが、それってもしかすると、切り方で解決できるかもしれません!ピーマンが苦い理由には、タネや中にあるワタだったりといくつかの要因がありますが、「切り方」もその一因になるんです。

ピーマンの繊維も縦方向にありますが、横に切る(繊維を断ち切る)と繊維が壊れて苦味が強く出やすくなってしまうんですね。一方で、これを縦に切る(繊維に沿った切り方)と苦味を感じにくくなるというから不思議です。“本当?信じられない”と思うかもしれませんが、ぜひ一度試してみてください!

 

いかがでしたか?何気なく行っていた「切る」という工程も、繊維を意識してみると、切り方が決まってきたり、味や香りにも影響があるということがお分かりいただけたでしょうか?

「切る」ということは、単なる調理の準備ではなく、味や香り、食感をデザインするプロセスなのです!切り方次第で料理の仕上がりも大きく変わるので、目的に合わせた食材の切り方をマスターすれば、普段の料理もワンランクアップしたお料理になるかも!

繊維に沿って切るか、沿って切らないか。大きく切るか。小さく切るか。
今回は、輪切りやら短冊切りやら様々な伝統的な切り方についてはご紹介していませんが、これから出会うお料理で、切り方に注目してみると自分なりの発見と美味しい科学が見つけられるかもしれませんね!

次回の「美味しい科学」のテーマは加熱。身近な調理法だけど、ここにも美味しい科学があるんです!お楽しみに!

 

– Information –
東大CAST

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