2018.10.02. | 

[第1回]藤野のお山の食まわり:ローカルの良さは「食」のなかに見えてくる

移住者があとを絶たない神奈川県の山あいのまち、旧藤野町。12年前に移住し、現在は山奥の古民家に暮らすライター・平川まんぼうが、藤野での、食にまつわる日々を綴ります。

「もう都会はいい。田舎で、のんびりひっそり暮らしたい」

そう思い、神奈川県の山あいのまち、藤野町(現在は相模原市緑区)に移住したのは、27歳の秋のこと。あれから、瞬く間に12年が経ちました。

山あいといっても神奈川県でしょ、そこまでじゃないでしょと思った方、甘いです。たぶん想像している以上に「山」です。ものすごく田舎です。「東京から1時間でこんな秘境が!」という衝撃も、このまちを選んだ決め手のひとつでした。

1年目は、毎日毎日、季節の移ろいにひたすら感動しました。突然訪れる紅葉、山を覆う朝もや、冬のありえない寒さ、星の美しさ、満月が照らす夜道、新緑のエネルギー、見たこともなかった大きな蜘蛛や、最寄駅に降り立ったときの空気の静謐さ。日々、驚きと感動の連続で、ただそれだけで移り住んでよかったと思えました。丁寧な暮らしを心がけなくても、自然と心の背筋が伸びていきます。

しかし「のんびりひっそり暮らしたい」という願いは、早々に打ち砕かれました。

だって田舎暮らしは、知らなかったけどめちゃくちゃ忙しいのです! ノースローライフ!

地域の行事、草刈り、薪割り、懇親会、近所のお茶飲み、広い家の掃除、畑仕事や食べきれない野菜を使った常備食づくりに家の修理。近くにお店がないから買物にだって時間がかかります。それに、ひょんなことから選んだこの藤野というまちは、イベントもやたらと多いのです。私自身が、企画者側に回ることもしょっちゅうです。

今年の春には、ご縁があって築90年の古民家に引っ越しました。最寄り駅から車で20分ほど。車が1台やっと通れる小道を入ると、ポツンとそのお家が現れます。3軒がまとまって建っていますが、住んでいるのは私だけです。わかりやすいところでいえば、wi-fiは、私の家のものしか飛んでいません(笑)。家からは森と空しか見えず、聴こえるのは鳥の声と川の流れる音と、風の音だけ。壁には指が通るほどの隙間があり、窓が開かなかったり、雨漏りしたり、早くもトイレが壊れたり。古いおうちは事件の連続です。

私は決して、自給自足スキルがあるわけでも、DIYが得意なわけでも、サバイバル能力が高いわけでもありません。料理はどちらかというと不得手なほうですし、マメに家事をするタイプでもありません。原稿の締切が続けば、我ながら「田舎で暮らす意味がないのではないか」と思うほど生活が荒みます。

それでもなぜ、12年も暮らし続け、もう都会には戻りたくないと思うのか。このコラムでは、どんな場面にも必ず顔を出す「食」の視点から、楽しい山暮らしの日々をみなさんにお伝えできたらと思っています。というのも、食が人と人、あるいは人と自然をつなぐために果たす役割はとても大きいのだと、藤野で暮らすようになって実感しているからです。

今日もこれから、ご近所さんにいただいた野菜を使ってお昼ごはんをつくるところ。こんなさりげない日常に、豊かさのタネがいっぱいに詰まっているのです。どうぞお楽しみに!

ライター / 平川 友紀

リアリティを残し、行間を拾う、ストーリーライター/文筆家。1979年生まれ。20代前半を音楽インディーズ雑誌の編集長として過ごし、生き方や表現について多くのミュージシャンから影響を受けた。2006年、神奈川県の里山のまち、旧藤野町(相模原市緑区)に移住。その多様性のあるコミュニティにすっかり魅了され、現在はまちづくり、暮らしなどを主なテーマに執筆中。通称「まんぼう」。

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文脈や背景を知ることで、その時、その場所は、より豊かになるはず。

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みんなとともに考えながら、さまざまな場所へ。
あらゆる食の体験と可能性をきりひらいていきます。

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