SERIES
Food Future Session
2023.04.18. | 

[Vol.2]顔が見える関係性だからこそ、才能ある人が集まり、つながっていく【シーナタウン 日神山 × Yuinchu 小野】

「Food Future Session」という壮大なタイトルで展開する、×Mo:takeの座談会。今回は、池袋西エリアで有志と「株式会社シーナタウン」を設立し、商店街のまち宿とお菓子工房「シーナと一平」など、場所・空間・まち作りの提案と運営を行っている日神山晃一(ひかみやま・こういち)さんとYuinchuの小野正視の座談会です。「シーナと一平」を会場に開かれた座談会。Vol.2では、シーナタウンが運営している場所のそれぞれの特徴や、場の運営において大切にしていることについてお聞きしました。

女性チームが独立して運営しているアホウドリ

小野:商店街のまち宿とお菓子工房「シーナと一平」以外にも、ごはんとケータリング「アホウドリ」、ブルワリーパブとギャラリー「NishiikeMart」などを運営されています。こちらは、どのような場所なんですか?

 

日神山さん:ごはんとケータリング「アホウドリ」は、戦後すぐに建てられた木造2階建ての住宅をリノベーションして作ったキッチンスペースです。元々は大工集団である建築事務所 鯰組がプロモーションスペースとして作ったカフェ「なんてんcafe」がありました。先進的な取り組みでしたが、同じような場所が増えて来たこと、本業に集中したいということから、運営を引き継いでくれないかという話をシーナタウンにいただきました。

その頃、女性チームが独立を前提に動いていて、食にかかわるスキルやその他の才能を生かして働けるようにしたいと聞き、お弁当ケータリング事業と、手作り料理を食べられる社員食堂の運営が始まりました。僕たちは現場に出るわけではなく、あくまでバックアップの形で関わりました。

 

「この日の午前中はちょっとお弁当詰めが忙しくて」となったら、お手伝いに来てくれる方がいらっしゃったりと、いいコミュニティができています。現在は代表の大石真理子が「虎とバター株式会社」として独立法人化し、私たちは運営から離れていますが、2階をシーナタウンメンバーが利用していたりするので建物は継続してシーナタウンが借りていて、サブリースの形態になっています。一緒に忘年会したり、お弁当をお願いしたり、いい関係ですね。これからも彼女たちのように独立して頑張っていく人たちがどんどん出てくればいいなと思っています。

 

小野:何かを始めようとした時に、会社の運営としてのバックアップがあることにより事業化が進み、独立もしやすくなると思いますが、下支えしつつ自分で飛び立てるように応援していったんですね。

 

「若者を応援する文化を残したい」から始まったNishiikeMart

日神山さん:ブルワリーパブとギャラリー「NishiikeMart」がある場所も、元々は築50年以上の木造マーケット「西池袋マート」でした。中を回遊できるようになっていて、元は、金物屋さんや肉屋さんがあった場所です。閉店した後使われておらず、例えばそこをマンションにする手もあったと思いますが、「ここに何かをまた復活させたい。楽しいことをして欲しい」という大家さんの思いがあったので、どう使おうか考えました。

 

このあたりは、かつて「トキワ荘」や「池袋モンパルナス」があり、売れない漫画家や画家がいっぱい住んでいた地域です。何かに人生を捧げて頑張りたい若い人たちがいっぱい住んでいて、街の人たちが彼らを許容していたというか、応援していたんです。例えば、近くの氷屋さんは、お金のない方に絵と交換で氷を売っていて、今でもその絵が残っています。そんな風に、「これしかできないけど」というものを持っている、ちょっと変わった若者たちを可愛がり、応援する文化がこの街にはあったと思います。

その文化を残していきたいと考えた時に、このあたりにはアートを学ぶ学生がいっぱいいるので、その子たちがもう少し気軽に芸術を表現できる場所になったらいいな、と考えました。たまたまビールの醸造家の方と出会ったので、ビールの醸造所Snark Liquidworks(注:2023年4月よりCycad Brewing/サイカドブリューイングとしてリニューアルオープン)とギャラリーにして、街の人を呼んできて発信していくインターネットラジオからスタートしました。

 

やりたかったのは、いわゆるギャラリーというよりは、アトリエとギャラリーのように使ってもらうことです。夜な夜な制作している若者の横で、ビールを飲みつつ、一杯飲ませてやって応援するみたいな、そんなおじさん像を思い描いて始めました。これから、そういう使い方をする若者が出てくればいいなと思っています。

 

場を完成させすぎないことが、面白い才能を炙り出す秘訣

小野:どの場所もそれぞれ他にはない特徴があり、エリアの特徴を汲んだコンセプトを持ち、人が集まるような場所になっていますね。

 

日神山さん:一番大切にしているのは、顔が見える関係性を作りたいということで、それさえ大切にされていれば中身はどんどん変わっていいと思っています。

実は「シーナと一平」も、そこに集まる人たちがどんどん使い方を変えていきました。最初はミシンカフェでしたが、ミシンを置いておくとミシンを使いたい人と教えたい人が現れて、その人たちが「この場所で何かをやってみたい」と言うようになりました。最初は僕たちがカフェを運営していましたが、だんだん場所を預ける形に変化していき、日替わりでカフェをしたいという人も出てくるようになりました。私がコーヒーを淹れるよりももっと上手で想いがある方がいっぱいいらっしゃるので、これはお願いしたほうがいいなと(笑)。

そうなるとどんどんプレイヤーが炙り出されてくるんです。こんなふうに顔の見える接点ができることで次のステップへどんどん転がっていき、今のお菓子工房というスタイルになりました。

現在の1Fのシェアキッチン「お菓子工房」の運営をお願いしている株式会社バイツさんも、もともとはここでお菓子販売やカフェを営業してくれていたメンバーなんです。パティシエだからこそ利用者に寄り添えることがあります。ただ場所を貸すということだけでなく、この場所のことを理解して、コミュニケーションでいろいろな問題を解決し、一緒に事業をつくっています。
そういう関係ができるにつれ、宿のスタッフとも「ちょっと荷物受け取っておいて」とか「ちょっと買い物行ってくるので見てて!」みたいな、ちょっとした助け合いが生まれています。

シーナと一平の1Fの利用方法はこのように絶えず変化してきましたが、当然、今後も変わっていくと思います。一貫しているのは、どの段階でも顔の見える関係で場を作ったり物を販売しているということです。

 

小野:面白い才能が炙り出されるために必要なことってなんだと思いますか。

 

日神山さん:「ここで何かをやってみてもいいかも」と思えるような、一歩踏み出しやすい余白を作っておくことです。綺麗に出来上がった場には、自分の入る余地がなさそうな印象を与えてしまいますよね。

完成させすぎないことで、コミュニティとしてどんどん変化してほしいと思っています。「ここなら私の作品を飾ってもいいのかな」というぐらいの気持ちで入ってもらえる状況にしておきたいですね。

 

失敗はしてもいい。だからこそ最初の一歩を踏み出しやすくする

日神山さん:完成させすぎないと同時に、できないこと、足りないものも正直に伝えることを大事にしています。それを明確にすると、できる人が現れるんですよ。例えば、ミシンを教える人が出てきますし、使いたい人も出てくる。そうなると自然と場が発展していくようになります。

 

最初に全部を完璧にしてしまうと、そこから発展することなく終わってしまうんです。それより、できないことや足りないことを残しておくことで、お客さんを単なるお客さんにせず、参加できるようにしています。当事者意識と言えるかもしれません。何かをはじめてみようと思う時に、「シーナと一平」はちょうどいい場だと思っています。

新しいことをはじめる時に、池袋の駅前のような繁華街で始めようとすると費用もかかりますし、失敗できない怖さがありますよね。でも、ここみたいな決して有名ではないまちの小さなトライなら、多少失敗してもいいんじゃないですか。最初の一歩を小さくして、足を上げやすくすることが大事だなと感じています。

僕の本業はインテリアデザイナーです。本業のA面では今までできなかったことがあるんですよね。例えば、一緒に作っていく余白をもったり、「これでいいんだ」とゆるく受け入れていくことはなかなかできませんでした。そこをシーナタウンというB面で実現していると言えるかもしれません。

 

小野:日神山さんにとって、シーナタウンに関わることは自己実現的な部分でもあるんですね。

 

日神山さん:そうですね、自分自身の挑戦の場でもあります。自分にとって面白いものが世の中でも面白いとされるのか。それが問いになっている部分があるので、これまで本業でやってきたこととはちょっと違うアプローチでやっていると思っています。

 

小野:日神山さんはバランス感覚が素晴らしいですよね。さっきの余白の話もそうですが、僕自身が憧れるようなバランスを実践されているなと思います。

僕自身も事業を運営する立場としてもバランスを意識しています。僕らの事業モデルは、カフェやレンタルスペースという装置を渡し、二、三歩後ろで見守っている状態です。狙っているわけではないのかもしれませんが、日神山さんは場に自ら寄ることもあれば、後ろに引いて見守ることもあって、余白のコントロールが絶妙ですね。

 

次回は4/20(木)に公開予定です。Vol.3では、2人の出会いまで遡りながら、2人の関係性や、B面を作ったことでもたらされたA面(本業)への波及効果などについて語っていただきます。

 

– Information –
シーナタウン

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ライター / 平地 紘子

大学卒業後、記者として全国紙に入社。初任地の熊本、福岡で九州・沖縄を駆け巡り、そこに住む人たちから話を聞き、文章にする仕事に魅了される。出産、海外生活を経て、フリーライター、そしてヨガティーチャーに転身。インタビューや体、心にまつわる取材が好き。新潟市出身

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