色んな人と過ごす時間を大事に。
高校卒業まで茨城県日立市で育ち、大学進学のために上京。小さい頃は、動物園の飼育員さんになりたかったというほど「生き物」が好きな五月女さんは、大学では「ミツバチを用いた環境指標の開発と環境教育の実践」といったテーマの研究をとおして、人と環境のつながり、まちづくりやコミュニティへの概念を体験を通して学んでいったそうです。
大学卒業後はすぐに就職するのではなく、まちづくりのプロジェクトやイベントのボランティアスタッフとしても活動していく中、色んな働き方や生き方をした人との出会いに刺激を受けると、この頃から、地域、人、住まい、コミュニティについての関心がどんどん高まり、26歳以下の若者コミュニティで社会課題を解決する団体で活動を開始。「この時期が、住まいとコミュニティについて沢山考えた期間」という五月女さんは、シェアハウスでの生活も始めて、家族や友人とも違う生態系のようなコミュニティの中での新しい体験が刺激になったそうです。
大学卒業をきっかけに、活動の幅を広げていく一方で、将来への不安はあったといいます。
五月女さん:大学を卒業後、大学院へ進み中退しているんですが、都市型養蜂のプロジェクトに関わったりしながらも、やはり働いていないという自分にコンプレックスのようなものはありました。ニート時代と自分では呼んでいるんですが、将来への悩みは大きかったです。でもその分、団体やシェアハウスの仲間、出会った人たちとの時間を大事に思いながら、濃い時間を過ごしていました。その時の経験、蓄積されたノウハウ、その後に入社した会社との縁がごま油との出会いや今につながっていると思えるので、働いていなかったという過去もポジティブに受け止めています!
人生はまるでドーナツのよう。自分にとっての人生を。
『株式会社tome(トゥーミー)』は、五月女さんの36回目の誕生日となる2024年5月20日に設立されました。社名は、“そうとめ”の“とめ”をアルファベットにして「to me」。五月女さんが独立を考える前に、働き方のイベントで知り合った横石崇さんが考えてくれたものだそうです。これを機に「せっかく名前があるなら独立をして会社にしよう!」と独立の準備を進め、それから1年後の2024年に会社が誕生しました。
五月女さん:横石さんは、飲みの席でのノリだとおっしゃっていましたが、自分はそうは思えなかったんです!自分では「to me」は出てこないし、考えつかないなぁって思ったんですよね。社名をありがたくいただいて、「to me」の解釈を自分で考えていきました。
この解釈を考える時に以前、横石さんが「働き方ってドーナツだよね」とイベントで話していたことを思い出したんです。それは、「ドーナツって真ん中が空いてないとドーナツにならないし、自分が真ん中にいないと周りの部分もない」というお話でした。
これを聞いて、自分の人生をドーナツで見たときに、自分が真ん中にいて、自分なりの主人公であるべきだと思ったんです!これまで、人や街、地域を繋ぐまちづくりのイベント、コミュニティにも関わってきて、誰かを応援する側ではありましたが、自分っていうものを真ん中に置いて、その周りの人たちとの接点となる地域やコミュニティを繋いていくっていう役割を『tome』でやっていきたいと思っています!
クライアント不在のプライベートワーク。地元を少しでも盛り上げたい。
色んなコミュニティで活躍する五月女さんですが、生まれ育った地元でも、仲間と一緒にコト起こしをしています。その取り組みとして始めたのが移動式ガチャや野外上映会。こうした企画・イベントは、地域のデザイナーさんや建築家、IT関係の方など多様なメンバーと一緒につくっているそうです。
−−移動式ガチャ面白い企画ですね!どんなものなのか教えてもらえますか?
五月女さん:移動式ガチャの中身は、日立に縁があるカフェや施設からロゴマークをいただいて、それをシールや缶バッチにしてガチャにしています。マルシェやお祭りで移動するというガチャのスタイルで、ガチャをするお客さんが、この“まち”のことを知ってもらうきっかけづくりになればという想いと遊び心が詰まった企画で取り組んでいます!
−−私もガチャはついつい気になってやってしまうタイプですが、手軽なガチャを通して地域内外の人も知るきっかけになりそうですね!お写真を見てすごく素敵な雰囲気だなぁと思っておりましたが、日立市で野外上映会もされているんですね!
五月女さん:はい、野外上映会も日立市で開催しているのですが、この場所のオーナーさんが僕と割と年齢が近いというのもあって「なにか面白いことやりたいね」っていう話で盛り上がったことからはじまりました。そうして話していくうちに、「映画祭みたいなものをやろう!」っていう話になって生まれたのが野外上映会です。そこから移動式ガチャの屋台も作ってくれたメンバーにも声をかけて本格的にスタートしました!
でも、これはクライアント不在のプライベートワークでビジネスではないんです。みんな本業は別にありますが、面白いし、地元のコミュニティ作りをしていきたいという想いから取り組んでいるんですよ。
−−なるほど!色んな人に知ってもらって、この空間をぜひ味わってもらいたいですね。でも、みなさん本業がありながら、なぜこのイベントをやるんでしょう?
五月女さん:どうしてでしょうね(笑)。でも僕は、地元で何かしら自分のスキルが活かせたり貢献できたらなって思っているというのはありますね。でもこうした取り組みをやってみて、改めて地域の課題っていうのが見えてきます。この野外上映会も「雰囲気がすごく良くて、いいね!楽しそう!」というお声はいただくものの、実際にここに来れる人は限られているんですよね。車移動が中心の地域でも駐車場がないという理由が参加へのハードルになってしまったり、SNSなどでの情報の周知もやはり行き届かないところがあります。こうした部分も意識しながら、みんなが楽しめる場を作りたいですね。
本気の趣味からはじまった『ごま油部』
ここからは、もともと「ごま油」が好きだったという五月女さんが『ごま油部』を発足するまでのお話も聞いていきます。ごま油が好きだとはいえ、私たちと同じように、ただのユーザーだったという五月女さんが『ごま油部』を設立したのは、前職での出来事がきっかけだったといいます。
−−今、多くのごま油屋さんと一緒にごま油のことを知ってもらうきっかけ作りをされていますが、なぜこの取り組みを始めたのかを教えていただけますか?
五月女さん:この取り組みを始めたのは、ごま油が好きすぎるというのが理由です!(笑)が、きっかけでいえば前の会社に在職中に「自社で所有するシェアキッチンとレンタルスペースを使って何かイベントができないか」という話が社内で出たんです。そこで僕が「自分が好きな『ごま油』のイベントを企画しよう」と考えたことから始まりました。でも、ごま油を食べるだけのイベントでは面白くないから、色んなごま油屋さんを呼んでイベントをやろうと考えて『SOSOGE FES』というイベントを企画したんです。
−−注げ!ということですよね?なぜ、ごま油フェイスにしなかったんですか?
五月女さん:それは良く言われますが、ごま油フェスってちょっと直球すぎかなと思って考えたところ、、「ごま油を注ぎたい、注げ注げ!うん!注ぎたい!」って気持ちで『SOSOGE FES』にしたんです!(笑)
−−なるほど!キャッチーな表現ですね!フェスをやれるほど、ごま油屋さんってそんなに沢山あるのかなぁていう印象なのですが、実際はごま油屋さんも沢山あるんですね!
五月女さん:そうなんです!でも当時は僕も全然知らなくて、スーパーにいってもごま油は、決まったメーカーのものしか販売されていないし、どのくらいごま油屋さんがあるのかも未知数でした。
そこからは、苦戦しながらもWEBで沢山調べたところ約40社ほど見つかって、お問い合わせフォームから長文の想いと、ぜひ協力して欲しいという趣旨の連絡をしていきました。
でも、みなさん忙しすぎて、返事がこないのが当たり前の状況が続きました。その中でも「うちも協力しますよ」って言ってくださったごま油屋さんが何社かいらっしゃったんです。その縁で今もイベントなどでご一緒させていただいていたり、和田萬さんと村松製油所さんにはトークイベントにもご協力いただいています。
−−その行動力はすごいですね!きっとその想いが通じたのだと思いますが、どんな内容だったのでしょうか?少し教えていただけますか?
五月女さん:すごく沢山書いたので読む方も大変だっただろうなぁと今は思えるのですが、簡潔にいうと「ごま油が好きで、ごま油を色んな人に知ってほしいのでイベントをやります!本気の趣味です!協力してください」っていう趣旨のものですね!
−−それは、熱いです!(笑)きっと実際に調べていくうちに、さらにごま油への愛や想いも強くなっていったんですね!
五月女さん:そうですね、想いは強くなりましたね!本当に知らないことだらけでしたが、知ると歴史も古く、ごま油について色んなことが見えてきました。
例えば、販売されているごま油の数です。スーパーの棚をイメージしていただきたいのですが、オリーブオイルは棚1面のコーナーがあって、高価なものから安価なものまで各社のものが揃っていますが、ごま油の数は3社か4社程度です。以前、和田萬の和田さんに「ごま油は、オリーブオイルとサラダ油の過渡期にいると考えている」と教えていただいたのですが、販売されているごま油の数が少ない理由として、オリーブオイルは“作り手の想いを意識して買うもの”として消費者が受け入れている一方で、ごま油は、サラダ油などと同じように、“料理に使えればいいもの”というイメージになっているんじゃないかと、僕も考えるようになりました。
イベント当日は「一緒に広めたい」っていうことで大阪からイベントのためだけに足を運んでくれた和田萬さんや、他のごま油屋さんからも色々と連絡をいただくようになり、プレッシャーも感じながら無事にそのイベントを開催することができました。
−−こうしたイベントをきっかけに、色々な背景や生産者の想いも知っていくわけですね。
五月女さん:そうですね、だから僕は、色んな人に、ごま油を知るきっかけを作ったり、体験する場を作りたいんです。僕なりのごま油への想いや良さ、好みもありますがそれを僕が語るのも違うのかなって思っています。どちらかというと僕はごま油の世界への入口を作って、その先にいるごま油屋さんの顔をちゃんと繋ぐことが、僕と「ごま油部」の役割だと思っています!
五月女さんが、情報量をかなり絞って制作したという「ごま油部ガイドブック」をみると本当に知らないことだらけの情報ばかり。例えば、私たちが普段口にしている「ごま」は99.9%は輸入品で国産品はわずか0.1%という驚きの数字。そうした中で、ごまの国内栽培や製造方法にこだわるごま油屋さんはいるものの、希少なために市場に出回らない商品もあるとか。
「スーパーに並んでいるごま油以外を見つけて、好きな地域、作り手の想い、パッケージデザインなど、ベストなごま油と出会えてもらえたら嬉しい」と五月女さん。スーパーフードとも言われるごま油の世界に足を踏み入れてみたくなりますね!
想いに賛同してくれる人と一緒に。面白いことをしていきたい。
−−最後に、色々と活動するコミュニティの中で、色んな役割を担いながら、人や地域、今はごま油を起点とした関係人口も増やそうと取り組まれている五月女さんが、今後「こんなことをしていきたい」と想い描いている構想がありましたら教えてください。
五月女さん:まず、ごま油部はやはり賛同してくれる人、関係人口を増やしたいですね。でも、ごま油部自体の性質として自分の中では、特定のごま油屋に忖度をしないことを目指してます。
老舗であったり、企業規模の大小がある業界ではありますが、そういった背景は関係なくて、大事なのは同じ想いに賛同してくださることだと思っているんです。ビジネスではなく、本気の趣味なのでそういった意味でも、フラットな関係性で、一緒にごま油を広めるという想いでごま油屋さんやごま油ファンが集まるコミュニティを目指したいですね!
『tome』としても、自分自身としても、面白いから一緒にやろうとか、“面白いね”っていわれることが一番嬉しくて、活動の原動力になっているんです。だから、これからも“面白いね”、“面白そうだね”って言ってもらえるようなことはなんでもやりたいと思っています!
そこから生まれるコンテンツを育てていきながら、そのコンテンツが、最終的には何か違うものに転用されたりしながら、人や街、地域を繋いだり、育てていくものになったらいいなって思いながら、これからも色々とチャレンジしていきたいですね。
– Information –
株式会社tome
SOSOGE FES
常陸コレレ