
人と自然が関わるキッカケをつくる“装置”
−−ここまでのお話で(Vol.2)で、ヒューゲルカルチャーは「自然の循環を人の暮らしの中にも取り入れていく考え方」だと伺いました。檀さんは、その考え方のどんなところに可能性を感じたのでしょうか。
檀さん:僕が面白いなと思ったのは、自然を相手にしながらも、人間が無理にコントロールしようとしていないところなんですよね。
森って本来、誰かが管理しなくても循環していくじゃないですか。落ち葉が積もって、木が朽ちて、その中でまた新しい命が育っていきます。ヒューゲルカルチャーには、そういう“自然の力を活かそう”という考え方があるんです。
僕はこれまで自然の中でたくさんのことを教わってきましたし、マウンテンバイクの選手として世界を回る中でも、人間は自然の一部なんだということを何度も感じてきました。「自然を支配する」のではなくて、「自然と一緒に生きていく」という考え方にすごく共感したんですよね。
だからこそ、それって単に畑の作り方の話じゃなくて、人と自然との関わり方そのものを考えることにも繋がると思ったんです。

−−その考え方は、実際に少年キャンプFarmではどのように形になっているのでしょうか。
檀さん:少年キャンプFarmも、僕の中では野菜を作る場所という感覚ではありません。もちろん野菜も育てるんですけど、それ以上に、人が自然の循環と関わるキッカケをつくる場所だと思っているんです。
近頃は食べ物がどうやって育っているのか、土がどうやってできているのか、そういったことを実感する機会も少なくなってきましたよね。でも、実際に土に触れたり、種を蒔いたり、季節の変化を感じたりしていると、自分たちも自然の循環の中で生きているんだということが少しずつ見えてくるんです。
−−実際にそうした場をつくる中で、どんな変化や気付きがありましたか。
檀さん:そうですね。やっぱり自然って、人間が思っている以上に力を持っているんだなと感じます。僕たちはつい「育てる」とか「管理する」とか考えてしまうんですけど、実際には自然の方がずっと上手なんですよ(笑)。
人が少し手を貸すだけで、土も育つし、生き物も集まってくるし、景色そのものが変わっていくんです。そういう姿を見ていると、僕たちは自然を支えるというよりも、自然に支えられているんだなと改めて感じるんですよね。
それに、子どもたちも大人たちも、そういう場所に来ると自然と表情が変わるんです。土を触ったり、季節の変化を感じたりしながら過ごしていると、自分たちも自然の一部なんだということを少しずつ実感していくんだと思います。
僕は、その感覚を取り戻していくことが、これからの時代にはすごく大切なんじゃないかなと思っているんです。

それぞれの土地に、それぞれの場を
−−檀さんのお話を伺っていると、少年キャンプも少年キャンプFarmもヒューゲルカルチャーも、すべて「場」をつくることに繋がっているように感じます。
檀さん:そうですね。僕は何かを一方的に教えたいわけではないんです。その場所に来て、見たり、触れたり、食べたり、誰かと話したりする中で、自然と気付くことがあると思うんですよ。
畑も同じで、野菜を育てるためだけの場所ではなくて、人が集まり、会話が生まれ、自然との関係を感じられる場所だと思っています。だから僕にとってヒューゲルカルチャーは、農法というよりも、人と自然、人と人が関わるための「装置」だと思っています。
−−その場は、この八ヶ岳だけでなく都市にも広がっていく可能性があるのでしょうか。
檀さん: 僕は十分あると思っています。むしろ、これからは都市の中にこそ、そういう場所が必要なんじゃないかなとも感じているんです。
自然というと、山や森の中へ行かないと触れられないもののように思われがちですけど、そんなことはありません。例えば、「都市の真ん中にあるビルの屋上」なんかはラストフロンティアだと思っています。
−−そのお話を伺っていると、檀さんが見据えているのは畑そのものではなく、その先に生まれる人や自然との関係性のようにも感じます。
檀さん:そうかもしれませんね。僕は昔から、人が集まる場所が好きなんですよ。少年キャンプもそうですし、少年キャンプFarmもそうなんですけど、何かを教えるための場所というよりも、人が集まって、それぞれが何かを感じたり、持ち帰ったりできる場所にしたいと思っているんです。
自然って不思議で、人と人を繋ぐ力があるんですよね。一緒に畑をやったり、ご飯を食べたり、焚き火を囲んだりしていると、自然と会話が生まれるんです。
僕は、そういう時間の中で生まれる繋がりがすごく大事だと思っているんですよ。

−−都市の中でそうした場をつくるとき、檀さんが大切にしたいことは何でしょうか。
檀さん:ただ畑を置けばいいということではなくて、見た目やデザインもすごく大事だと思っていますね。どれだけ良いことをしていても、面白そうに見えなかったら広がっていかないじゃないですか。だから都市でやるなら、暮らしの中に自然が入ってくるだけじゃなくて、人が自然と関わりたくなるような場にしたいんです。
−−そうした場が、これから少しずつ各地に広がっていったら面白そうですね。
檀さん:そうですね。もちろん、同じものを増やしたいわけじゃなく、その土地にはその土地の自然がありますし、人も違いますからね。それぞれの場所で、その場所らしい形の場が生まれていったら嬉しいなと思っています。
−−その未来に向けて、檀さんご自身はこれからどんな挑戦をしていきたいと考えていますか。
檀さん:少年キャンプも、少年キャンプFarmもそうですが、こうした場は、一朝一夕ではできないんですよね。時間をかけて人との関係ができたり、その土地との関係ができたりしながら少しずつ育っていくものだと思うんです。
だから、都市の中でヒューゲルカルチャーという装置を導入することも含めて、ガンガン新しいことに挑戦しながら、今やっていることはちゃんと続けて、丁寧に育て続けていきたいでふね。その中で、同じような想いを持った人たちが増えていったり、それぞれの場所で新しい場が生まれていったりしたら嬉しいですね。

−−最後に、ここまでお話を伺ってきた中で、檀さんが今あらためて大切だと思うことを教えてください。
檀さん:僕はやっぱり、人は体験の中で育つんだと思うんですよね。誰かに教わったことももちろん大事なんですけど、自分で見たり、触れたり、感じたりしたことって、ずっと残ると思うんです。
自然の中でもそうですし、人との出会いもそうです。結局、人を変えるのは知識よりも体験なんじゃないかなと思うんですよね。
そうした体験から、少年キャンプは「夢」や「好奇心」を持ち続けて欲しいという想いでずっと続けていますし、ヒューゲルカルチャーは、笑顔や驚き、好奇心が生まれる「装置」として人々の暮らしの中に広めていきたいと考えています。
そんな場から生まれたコミュニティで、誰かが何かを感じたり、自分なりの答えを見つけたり、新しい一歩を踏み出したりしてくれたら嬉しいです。
それが僕の目標であり、これまでお世話になっている自然に対しての恩返しでもあって、僕の好奇心そのものなんです。
檀さんの言葉から伝わってきたのは、「人は体験の中で育つ」というシンプルな実感でした。少年キャンプも、少年キャンプFarmも、ヒューゲルカルチャーも、決して何かを教え込むためのものではありません。
自然の中で遊ぶこと。土に触れること。誰かとご飯を食べること。焚き火を囲んで語り合うこと。一見すると特別ではない時間の中にこそ、人が育つキッカケがある。
だからこそ檀さんは、何かを教えるのではなく、そうした体験が生まれる場を育て続けているのでしょう。自然の循環の中で生きること。そして、その中で得た経験や感覚を次の世代へ手渡していくこと。
八ヶ岳で始まったその挑戦は、これからも広がり続けていくのかもしれません。
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