抽出家の響さんと、往復書簡のようなコラムをはじめます
抽出家の響さん、こんにちは。
これからMo:take MAGAZINEの連載で、読者のみなさんと一緒に抽出の世界を覗いてみたいと思っています。毎回、ライターメンバーから響さんに、抽出についていろいろな質問をします。往復書簡のようなやりとりの中で、響さんから抽出の面白さを引き出していきたいな、と思っています◎
早速質問に入りますね。私は普段の生活の中で「抽出」って言葉を使うことがめったにないです。言葉の意味くらいはなんとなくわかるのですが……。要は、お茶とか出汁って、「抽出」ですよね? そうやって考えると、「抽出」って身近なものの気もします。
こんなふうに、家庭の中にある「実はそれ、抽出してるよ」というものがあれば、教えてもらえませんか。初回のコラムだからこそ、未知の「抽出」を少しでも身近に感じられるといいなと思っています。
あと、響さんが最近興味をもっている、抽出に関する話題などがあれば教えてください。
質問者/界外亜由美(かいげ・あゆみ)
素材のうまみや成分をひきだす「抽出」の世界
こんにちは。抽出家の藤岡です。
といっても、「抽出家」って、あまり聞いたことないですよね?
私の主な業務はバリスタです。
バリスタというと、コーヒーを扱うスペシャリストの様なイメージだと思いますが、接客、コーヒーの抽出、さらに発展すると焙煎等、業務内容は多岐に渡ります。
私の場合は、コーヒーの抽出から「抽出」そのものの探求にはまり、「抽出家」としてコーヒー以外の分野まで領域を広げて活動しています。今までに培ってきたコーヒーの抽出技術を活用して、日本茶や出汁など、水を介して抽出を行う素材全般について、主に商品開発や技術のトレーニング、店舗監修などを行なっています。
さて、家庭の中にどんな「抽出」があるか、というご質問でしたね。
抽出と聞くとなにやら難しいイメージに捉えられることも多いのですが、かんたんにいうと、素材のうまみや成分をひきだす手法全般を指します。お味噌汁など料理のなかで日常的に行われていることなんです。
たとえば、鰹節や煮干しなどは、水に入れ、温めることで成分を抽出していますよね?
また、アロマオイルなども抽出工程を経て作られています。
旅行で沖縄に行くと、沖縄そばを食べるときにコーレーグースという調味料が付いてきたりします。これは、泡盛に島とうがらしを1ヶ月ぐらい浸したもの。そうすると辛味の成分が抽出されて香辛料になるんです。これも抽出のひとつです。
また、ちょっと洒落たイタリアンでパスタを頼むと付いてくる唐辛子オイルなんかも辛味成分をオイルに抽出したものです。
こんな風に、日常の中に抽出されているものって意外と多いんです。
一番出汁、二番出汁のように、素材から出てくる成分には溶け出す順番や限度があります。美味しい部分だけを引き出すためには、技術が必要です。温度のコントロールや、浸す時間の調整をしたり、素材を細かく粉砕したりするための知識も必要です。場合によっては特殊な道具を使うこともあります。
その辺りが抽出家としての腕の見せ所です。
そんな私が最近興味を持っている抽出は……これは答え始めると長くなりそうですので(笑)、今日は簡単にお伝えしますね。
コーヒーに関しては常に新しい技術が更新されているので興味は尽きませんし、
まだまだ日本茶の抽出技術においては確立されていない部分が多く、探求のしがいがあります。
ノンアルコールのドリンク分野では、素材を蒸留して、精油やフレーバーウォーターを抽出し、ドリンクをクリエーションできるので、その組み合わせの沼にはまっています。
また、世界各地のまだまだ地名度の低い素材にも興味があります。各地を回って未知の素材を見つけてみたいです。