お母さん連れの小さなお客さんもやって来る食堂
シャッ、シャッ、シャッ。
渋谷の路地にある「かつお食堂」に入ると聞こえてくるこの音。カウンターに立つ永松さんが、お客さんの目の前で鰹節を削る音です。2017年11月にオープンしてから1年がたちました。
メニューは、鰹節ご飯をメインにした「かつお食堂ごはん」と「かつおめしごはん」、そしてかつお食堂特製生卵の3品。とてもシンプルです。
永松さん:私は鰹節の美味しさを多くの人に伝えたくてこのお店を始めました。鰹節は削りたてが一番。その美味しさを知ってもらうには、熱々のご飯に削りたての鰹節をのせた鰹節ご飯がぴったりだと思ったんです。
今年夏にはテレビ番組で紹介されたという永松さんとかつお食堂。それからというもの、クチコミでも広がり、宮城から沖縄まで全国各地から幅広い層のお客さんが訪れるようになったそうです。
永松さん:90歳のお年寄りからお子さんまで来てくださいます。自分から「行きたい」って言って、お母さんを連れて来てくれる小さなお子さんもいるんですよ。週に1回はそういった子が自分の意思で来てくれますね。すごくうれしいです。それに、家庭の味はお母さんが守るものだと思っているので、お母さんが来てくれることもうれしい。女性同士が「出汁の取り方どうしてる?」なんて情報交換している姿も、見ていていいなあって思います。
産地をまわってさらに引き出す、かつお節の魅力
永松さんには、美味しい鰹節を提供するうえで大切にしていることがあります。それは、鰹や鰹節がもつストーリーと、それを体験する産地めぐり。どこの地域のどんな人が、どんな想いで、どんなふうに作ったのか、永松さんが産地をめぐって出会った人たちから受け取った想いや経験をお客さんに手渡していくのです。
永松さん:月替わり、2カ月替わりくらいで削り節を変えているのですが、まず作り手の方の名前は必ずわかるようにしています。たとえば(取材した)11月は、日本一の生産量を誇る鹿児島県枕崎市のカネモ鰹節店さんです。また、時々お出しする、鰹の藁焼きや刺身についても、どんな人によってどこでどんなふうに釣られた鰹なのかがわかるようにしています。ストーリーを伝えることで、お客さんにもより美味しく召し上がってもらえたらと思うし、作り手さんの想いを大事にしたい。だから、産地めぐりは欠かせません。
楽しく、熱く、リアルに、鰹節への愛を伝える
こんなふうに積極的に産地へ旅に出かけるという永松さんは、さすが経験にもとづいた知識が豊富です。あきさせないというより、話をもっと聞きたくなる。とにかくおもしろいのです。
永松さん:産地に行くときは、鰹と鰹節の郷土料理にも必ず触れるようにしているのですが、いろいろあるんですよ。鹿児島県だったら、鰹の頭をビンタって呼ぶのですが、頭をまるまる煮た煮つけがあったり、鮮度が高いものだと鰹の心臓の刺身があったりします。あとは、出し殻の変わった活用法として、地元のパン屋さんで出し殻を使ったパンを販売していたり、ほかには出し殻を使ったかりんとうもあるんですよ。鰹節が入った白あんの最中も。
明るい口調で話す永松さん。会話が好きという人柄もあってか、お客さんとのコミュニケーションでは、「鰹節の美味しさを伝えたい」という想いをストレートに語りかけるそうです。好きなことを一方的に話しかけてるだけかも、とほほ笑む永松さんですが、お話から感じるのは、ほどよいさじ加減でお客さんたちとの時間を共有している姿なのです。
永松さん:ぜひ知ってほしいのは、ここで食べる鰹節と普段お客さんが食べている鰹節がなぜ違うのかということ。お客さんが「いい香り」「美味しい」と言ってくださったところで話を始めることを大事にしています。
店内にあふれた、ユニークな鰹と鰹節への愛情表現も、知識と胸に熱いものを与えてくれる。これらすべてが、かつお食堂自慢の、鰹節ご飯の美味しさなのです。
次回は12/25(火)公開です。
今では鰹節伝道師とも呼ばれている永松さんですが、もともとは夜遊びが大好きなOLだったそうです。そんな彼女がどんなきっかけで鰹節に引かれるようになったのか、どんなふうにかつお食堂を始めたのか、永松さんのストーリーをお話いただきました。(つづく)
– Information –
かつお食堂
東京都渋谷区渋谷1-6-4 The Neat青山 1F
<平日>9:00〜14:00(なくなり次第終了)
<土日>10:00〜14:00(なくなり次第終了)
※不定休
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