無人スタイルの一棟貸しホテルで、どんな食体験が創れるか
−−前回お話を伺った SWIATCH STAND ODAIBAが日常の中の食体験だったとすると、今回のPLAYLIVING IZUは非日常の中の食体験ですね。そもそも、伊豆のホテルとどこからつながったんですか。
小野:コロナの真っただ中で社会がとても閉鎖的になっていた頃、別のプロジェクトで知り合った知人から相談を受けたのがきっかけでした。
東京からアクセスの良いところに非日常を作りたいと思っているが、宿泊の中の食のコンテンツ自体を考えてもらえないか、という相談でした。
施設自体が、プライベート空間を重視した無人スタイルなので、何をどんな風に提供するのか、まったくゼロからのスタートでした。
−−無人の宿泊施設というとAirbnbもそうですが、旅館やホテルとは違って、基本的に食の提供がないですよね。そこをどんな風に考えていったんですか。
小野:材料だけ置いておけばいいのか?一泊二日で来たときに調理にそこまで時間をかけるだろうか?加工品を使ったらどうか?などとブレストを重ねましたね。
現地に行って、地域の食材を探したりもしましたね。
坂本:現地にいい加工品があるんですよね。道の駅とかで売っているような、地域の特産品を調理したものが、缶詰や真空パックで売っていて。宿泊する人たち自身で、それを食べて体験してもらい、食材としてアレンジする楽しみを提供する形が見えてきました。
「せっかく来たから」を満たしながら、旅の時間を邪魔しない
坂本:そこで、現地の特産品を元にアレンジしたレシピを、宿泊予約者限定でメール配信するサービスを考えました。宿泊者は送られてきたレシピを見ながら宿で夕食を作ることができる。作るといっても、お米と一緒に炊飯器に入れて炊くぐらいのちょっとしたアレンジなので、手間もかかりません。
小野:これは単なるレシピ紹介ではなくて、一緒に泊まった家族や友人と、地元の産物を使ったメニューを作って楽しむという食体験自体をデザインしているんです。
宿でご飯が出ないとなると、普通は周辺の飲食店へ行くことになると思うんです。でも、宿に着いてすぐご飯を食べに行き、帰ってきて眠るとなると「なんのためにここに泊まったんだっけ?」ってなりそうですよね。
−−PLAYLIVING IZUのようなキッチン付きの施設だと自分で作ることもできるけど、せっかくの宿泊だからラクしたい気持ちもありますよね。その間を取って、手間がかからず、しかもその土地のものを楽しめる体験に変えた、ということですね。
小野:旅の時間の中で、“食”ってあくまで一部だと思うんです。ご飯を作って食べる時間をぎゅっと短縮すると、食事の後はみんなでゆっくり星を見ることもできる。旅で大事にしたいのは、時間をどう使うかですよね。
−−旅の体験を邪魔しない、ということですね。貴重な滞在時間を奪わない。
小野:そうですね。そうやって旅という一連の流れの中で食の役割を捉えられたことが、今回とてもよかったと思っています。
名物「マグロのテール煮」を混ぜご飯に
−−どんなレシピがあるのか、少しだけ教えてもらいたいです。
坂本:ひとつは、鮪のテール煮を使った混ぜご飯ですね。伊豆は海産物がおいしいので、それを真空パックにした商品があるんですよ。
小野:そのまま食べても間違いなく美味しいんです。おかずにもなるし、つまみにもなる。
坂本:レシピでは、炊いたご飯と一緒に混ぜご飯にする、という提案をしました。もちろん、そのまま食べたいっていう人は食べてもいいし、バーベキューが終わった後に締めのご飯にする、という選択肢にもしてもらうことを考えました。鮪のパウチは宿泊先に置いてあるから、他の食材はお好みで近くのスーパーで買ってきてくださいね、という設計にしました。
−−どう食べるかも選べるんですね。
坂本:そうなんです。同じテール煮を使って、上海焼きそばをつくるレシピもあります。これなんかは、バーベキューのときの鉄板を使ってそのままできちゃう。
一人ひとりの感性に働きかける一泊二日の体験を
−−いくらいい良いものでも、時間がかかるものは、一泊二日の中ではそれだけやって終わってしまいます。でも、デザインされた小さなパーツがあれば、それを選んで組み合わせることができます。時間をかけないというのはそういうことですよね。
小野:まさに。それと、情報の出し方についても小さなパーツから始めていくことの良さってあると思うんですよね。お腹いっぱいにならない程度の情報量を少しずつ提供していく。一回の濃厚な体験ではなく、小さなパーツをいくつもつなげているうちに、だんだん新しい軸ができていく、ということが食はやりやすいんじゃないかなと思っていて。
−−相手の興味よりも先回らないということですね。
小野:そうですね。不親切にはならない程度に、お膳立てしすぎない。ハレの日のプレゼンテーションではなく、もっと地道に、一人ひとりの感性に働きかけていく感じです。限られた時間なので選択肢としてのサービスはいくつか用意しつつも、そこを自分たちで選んだ、という感覚は大事にしたいですね。
PLAYLIVING IZUの取り組みで、僕たちのやれることがまたひとつ増えたように思います。
次回は3/9(木)に公開予定です。
次回は、Mo:takeの根本であるケータリングについて語ります。コロナ禍3年目となった2022年は、ケータリングが少しずつ復活してきた一年でもありました。コロナ前と比べて、戻ってきたこと、変わったことについて、引き続き小野と坂本が語り合います。(つづく)